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作品名:神氣学園聖夜傳 作者:ジン 竜珠

第11回 聖夜傳 傳之拾壱
 クリスマスイブ。この日は正午から、学園でクリスマスパーティーがある。教師と生徒の有志による、どんちゃん騒ぎだ。
 退職者が出たことを利用して、凉がこの学園に就職した時は、正直面食らったが、理由を聞いてみて、ある程度納得した。
 この学園は卒業後の進路として就職も勧めている。その中には、なんらかの「企画運営」も含まれる。つまり、ある程度の規模を持ったイベントを企画し、うまく運営するにはどうすればいいのか、それをシミュレートさせているのだ。十年は続いているからノウハウの蓄積もあるが、それをなぞるだけでは成長がない。だから、教師陣も、可能な範囲で毎年参加し、チェックを入れている。凉は参加したことがないのでよくわからないが、実は「評価表」がパーティーの翌日に、企画した生徒たちに配布されているらしい。中には「どうすればよかったのか」具体的に聞きに来る生徒もいるそうだ。
 それはさておき。
 午前九時、凉は学園敷地の北にある、旧名仁学園跡地に来ていた。ここは今は建物が取り壊されて整地され、バンガロー風の小屋が一軒、建てられている。本格運用は来年度からだそうだが、ここは、キャンプ場として整備されるらしい。そのため、年明け早々には、川や池を模した水路や水源地が作られることになっている。中途半端な広さだから一般開放の予定はないそうだが、護代元理事長のこと、いずれは「そのこと」も視野に入れて運営するつもりだったのではないだろうか。
 バンガローを見上げながら、凉は呟いた。
「ウチの野外活動系の部活に入ってる三年生、悔しいだろうなあ」
 宗家からの命令で、この場所については、保守管理以外は手を入れることが禁じられていた。「冥陣」とかいう法陣の無効化も、夏休みに入る頃に完了したということで(何のことか、詳しい説明がなかったので、当時は意味不明だったのだが)、この場所はキャンプ場として利用されることになった。もっとも、護代元理事長が残した企画書によると、もともとの場所は学園所有の山林だったのだが、旧校舎の建物が崩壊したので、取り壊すついでにこの場所に変更したらしい。
「林、切り拓いて整地する手間が省けるからなあ」
 そう呟いた時、一人の男子生徒が近づいてきた。パーティーに参加する生徒はまだ来ていないし、企画側の生徒は、今は準備で、てんてこ舞いのはず。だから、ここに来るということは。
「ああ、鏑木か。まだ、三十分あるぞ?」
 凉にラブレターを出した、三年生の鏑木靖之だ。
「先生、俺、先生のこと……。メールくれた時は嬉しかったんですけど、文面が、その……」
 唇を噛みしめている。オブラートに包んだつもりだったが、やはりショックな内容であることには変わらない。ただ、靖之の方から「せめて直接、フラれたい」みたいな返信があったから、今日、この時間、この場所を指定したのだ。
「鏑木、メールにも書いたんだが、お前には未来があるからな。今の段階で選択の幅を狭めることもない」
 靖之の肩が震えている。そして、彼がうつむいた。
 そんな姿を見ると、自分がとんでもない罪人(つみびと)に思えてくるが、致し方のないことだ。
 打算の含まれる「結婚」ならいざ知らず、「恋愛」には自由があるべきだと思う。「可哀想だから」という理由で、好きでもない相手と交際するなど、相手に対しても失礼だし、凉にとっては、あり得ないことなのだ。それ以前に、凉の意識の向かう先は一つ。神仙道の成道だ。これ以上に、彼女が人生をかけて取り組むものなど、ない。
「俺が、魅力ないからですか?」
「は?」
 突然の言葉に、凉が首を傾げる。
「例えば……。そう、例えば、二年の天宮竜輝くんぐらい、カッコ良くて、頭も良くて、何でもこなせたら、先生は振り向いてくれるんですか?」
「鏑木、お前、何言ってるんだ?」
 靖之が何を言い出したのか、よくわからない。
 そして、今、靖之は胸を押さえて、荒い呼吸をしている。
 相当ショックなのかも知れない。自分に保健の知識はないが、パーティーには保健担当教師も参加する。だが、まだ来ていないかも知れない。
 靖之が両膝をついた。そして両手をも、つく。
 手を貸そうと近づいた時。
『グルァアアアアアアアアア!』
 靖之が、人間の発声器官から出たとは思えない声で、吠えた。
 ここの土地の底から、「陰の氣」が噴き上がり、靖之の身体を取り巻いているのがわかる。
「……。あー。こりゃあ、変な情念に絡め取られちまったか」
『アマミヤリュウキィィィィィ!!』
 鏑木靖之が、人外の「モノ」へと変形(へんぎょう)した。


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