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作品名:会長の「探偵物語」3 作者:ジン 竜珠

第4回
 前から思ってるんだけど、この人、「自分が気づいたことや知っていることは、みんなもわかってる」っていう前提で話をしているフシがある。この間だって「遺言証書(いごんしょうしょ)」って言葉使ってたし。その時はわからなくて、あとで調べて「ああ『遺書』のことか」って思ったぐらいだし。
「なんで、逃げてないって思うんですか?」
 僕の質問に、会長が隣の部屋に僕を連れてくる。
「君、ここから逃げてみて」
 窓から出て、木に飛びつけって、言ってるのかな。僕は窓際まで行った。
 頭の中じゃ可能だって思うんだけど、実際にやるとなると、かなりの勇気がいる。
 でも、なんとかなるかも知れない。そう思って手を伸ばした時。
「……あ」
 僕は気がついた。割れているのは、窓の中央部だけ。窓枠には、まだガラスが残っていた。鋭い刃のようになって。これじゃあ、手をつくことはできないし、外側の窓枠に手をつこうにも、確実に腕をケガする。
 足で踏みつけたのなら、ガラスは残ってないはずだ。
 会長が言った。
「まさか、その中央部分から空を飛んで、外へ逃げた、なんて言い出さないわよね?」
 僕は振り向いた。
 あの時、廊下には人がいた。だから、この部屋から出て行った「黒ずくめ」なんて目立つ格好、誰かに見られているはず。
 ということは。
「あの、のっぽの人の、嘘!?」
 やっとわかったの? そう言いたげに会長が頷いた。
「じゃあ、逃げ去る足音っていうのも、嘘?」
「それは、本当でしょうね。証言者が共犯ということも考えられるけど、それなら、もっとうまいアリバイ工作を用意しておくはず。場当たり的な犯行という線が濃いわね、窓の割れ方から見て」
 会長によると、もし窓から逃げたという工作をするのなら、窓枠の下部にあるガラスも砕いておくはずだという。それができなかったのは、凶器を用意したものの、殺害は最後の手段として考えていたからだろう、と。
「じゃあ、あの足音は?」
「多分、付近をうろついていた野犬。窓が割れた音で、逃げたのね。その足音を聞いたんだわ。もしかすると、犯人が餌付けしていた可能性もある」
「餌付け? なんで?」
「自分の身元を隠している逃亡犯の傾向として、深く人と関わろうとしない、っていうのがあるの。ただ、中には『寂しさ』を感じる者もいるらしい。そんな者の中には、街中(まちなか)では『鳴き声を出さない』小動物、こういった場所では野生の動物をてなづける者もいるらしいわ」
 おそらく、と前置きして、会長は続けた。
「指名手配犯は、潜伏している空き家で野犬に餌付けしていたのね。それで、ここまでついて来ちゃったんだと思う」
 餌をもらえると思って、手配犯のあとを追ってきたのか。ちょっと切ないな。
 その時、オーナーがやって来た。会長はオーナーから僕のスマホを受け取ると、自分のスマホ画面と見比べている。
 そして、スマホを左手に重ね、右手の指で鼻と口を覆う。これがこの人の「推理スイッチ」なのかも知れない。
「オーナー。昨日の顔見せでも、指名手配犯の話は、なさいましたか?」
「え? ええ、注意喚起するようにって、地元の警察からも言われましたし」
「被害女性ですけど、もしかして、靴に関わる仕事をしていませんでしたか?」
「シューズメーカーで営業をされているとか。よくご存知ですね?」
 そうして、会長はもう一度考えてから言った。
「オーナー。あなたの権限で、この人物を、地下室か倉庫など、外部へ逃げることができないところに隔離してください。相手は殺人犯です。必ず複数人で対応するように」


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