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作品名:会長の「探偵物語」3 作者:ジン 竜珠

第3回
「これは、失血死かしらね。ここに落ちている刃物が凶器か。大動脈損傷、って感じね、この出血量は。クッション越しに刺して、返り血を防いだってところか。『ここにだけ』は、注意が回ったみたいね」
 御遺体に手を合わせたあと、会長はしばらく、実況見分をしていた。
「防御創が見られるから、ある程度、もみあったのかしら?」
 そして、隣の部屋に行った。僕も、もちろんついて行く。会長の推理が見たいからでもあるけど、やっぱり、血だまりに沈んだ御遺体を見てるのは、ちょっと受け付けないものがあるから。
 会長は窓を見た。僕も窓を見る。二枚のガラスを引き合わせにして、今は閉まっている。クレセント錠もかかっていた。だから、一枚だけ割れてる、ここから逃走したんだろうけど。確かに、窓のちょうど真ん中あたりが割られて、ひと一人が通れそうな穴が空いてる。
 でも。
 本当にここから逃げたのかな? ここ二階なんだけど? 軽業師ならともかく、普通の人が二階から逃げるって、まず無理だよね?
 窓際に近づいて、僕は気がついた。外に大きな木が立っている。ここから跳んだら、枝に掴まることぐらいなら、できそうだ。もしかして、この木を伝って逃げたのかな?
 会長はスマホで何かを見ている。例の指名手配犯の写真とか記事のようだ。そして、戻ってきたオーナーに、会長が聞いた。
「御遺体の傍に落ちてた刃物は、ここのものですか?」
「ええ。ここに備え付けのパン切り包丁ですね。いつの間に、誰が持ち出したんだろう?」
 首を傾げるオーナーに会長が指示を出した。
「すみませんが、参加者の皆さんの写真を撮ってきてもらえませんか? カメラをお貸ししますので」
 そして、僕を見る。
「え? なんですか?」
「携帯、出しなさい」
「え? なんで、僕が?」
「……出せっつってんの」
 こう言われて出さざるを得ないところに、僕と会長との力関係がお分かり頂けると思う。あと、バイトだって言って、副会長がここに来なかった理由とか。
「真正面じゃなくて、できれば横と斜め後ろから見たものを。こういう風にして」
 と、会長は自分の髪をかき上げてみせる。
 オーナーが階下に降りると、会長はまた、あの御遺体がある部屋に戻った。
 僕もついて行った。本当は行きたくなかったけど、やっぱり会長の推理には興味、あるし。
 しばらく周囲を見ていた会長は、被害者のスマホを見つけたらしい。
「いくら白手袋をしてるからって、何処にあったかとか、ちゃんと鑑識さんが記録しないと、証拠能力が」
 って言ったけど、聞くような人じゃないよね? それは、僕もわかってる。
 しばらく操作して、会長が頷いた。
「なるほど、『これ』に気づいちゃったのか。脅迫でもしたのかしらね」
 横から覗き込むと、何かの映像だ。どうやら、昨日の昼、早めに来た人たちを映したものらしい。僕と会長以外の全員がいる。どうも昨日の午後には、ここに来ていたらしい。
 それと、もう一つの映像があった。昨日の夕方に撮られたものらしい。何処かの建物の前にある足跡だ。周囲に写っている物から比較して、かなり大きい。これって、もしかして!?
「会長。これって、もしかして指名手配中の殺人犯の!」
 会長は頷く。
「おそらくね」
「じゃあ、この女の人を殺したのも!」
「その指名手配犯でしょうね」
 僕は背筋が寒くなった。でも、同時に「もう、ここから逃げてるんだ」って気がついたら、安心した。
 僕の表情を見て、会長が言った。
「何、安心してるの? 殺人犯、ここから逃げてないわよ? さっき連れて行ったから、わかったでしょ、君も?」
「え? でも、窓を割って……。それに足音を聞いた人だっているし!」
 僕の言葉に、会長が溜息をついて僕を見た。
 その表情に浮かんでいるのは「わかってなかったのか、コイツ」っていうフレーズだ。


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