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作品名:会長の「探偵物語」 作者:ジン 竜珠

最終回
 大隅さんが事務室に行ったのを見て僕は言った。
「でも、会長、なんで、今言った人物が犯人なんですか?」
「え? あれ? わかんないかな?」
 と、会長は驚いたように僕を見る。申し訳ないけど、本当にわからない。
 そんな、僕の心の声が聞こえたのか、会長が深い溜息をついた。その溜息には「ミステリ考究会に在籍してるのに、なんで、こんなことがわかんないかな!?」とか「なんでこんなヤツ、連れてきちゃったかな!?」とか、そんな「いら立ち」が含まれているように思えた。
 仕方ないでしょ、本当にわかんないんだから!
「だから、なんで『紺野さんの非常に近しい、しかも家族といってもいいほどの身内の者、そして、先月、玄関ドアに修理を要する損傷を与えた者とは、高確率で知り合いの者』が犯人である可能性が高いんですか?」
「あのね、御遺体の顔がクロスで隠されていたっていうのは、犯人が身内である可能性が大なのは、常識。いわゆる『罪悪感』から死に顔を見られないって言われているけど、多分『自分の血に繋がる人を殺すことで、一族のDNAを残す可能性が減った』っていう本能からの後悔だと、思うのよね」
 そんな人間論とか持ち出されても、まったく理解できないんだけど。
「ドアが修繕されて、今のような状況になっているのも、偶然だとしたら、大バクチ。あらかじめ、修繕が必要な状態にされていた可能性が高いわ。ひょっとしたら、ドアを修繕した業者から、この合い鍵をもらっている可能性もある」
 まあ、そういうこともあるかも知れない。
「それに、御遺体が動かされた形跡がないのよ」
「それが、関係あるんですか? それに御遺体を動かしてないって、なんでわかるんですか?」
 あなた、本当にウチの会員?とでも言いたげな目で、会長は僕を見る。蔑まれているみたいで、いい気はしない。
「縊死(いし)した、つまり首を絞められて亡くなった御遺体って、括約筋とかが一気に緩むのよ。だから膀胱とか腸内の汚物が、亡くなるとすぐに身体の外へ流れ出るの。この御遺体は、その痕跡がほとんど直下(ちょっか)だけにあって他にないから、この状態のまま、放置されていたってこと」
「へえ」
 そうなんだ、と、僕はちょっとだけ会長に尊敬の念を抱いた。
「それに考えてみて? 外は猛吹雪よ。遠出はできないけど、でも、ちょっと外に出るくらいならできなくはない。だったら、それに紛れて、どこかに埋めれば、御遺体がすぐに見つかることはないし、うまくいけば、不用意に外へ出て、何らかのアクシデントで凍死したことにもできるはず。自分が殺人犯だなんて、疑いを掛けられるリスクがぐっと減るわ」
 と、会長は窓の外を見る。つられて僕も見た。確かに、この周囲(まわり)だったなら装備と懐中電灯があれば、うろつく程度は出来そうだ。
「にもかかわらず、犯人は紺野さんを絞殺してしまった。これは多分、突発的なこと。本当なら、多分、お酒で酔わせるかなにかして、外へ誘導するか運んで、放置するつもりだったでしょうから」
 そして、紺野さんの御遺体に目を向ける。
「つまり、犯人は、これを『殺人事件』にする必要があったってこと。本来なら外に処分する予定だったでしょうから、少なくとも、雪が解けた頃には御遺体が見つかっていなければならない状況にある人の犯行、とみることができるわけ」
「え、と。それって、どういう意味ですか?」
 会長の言うことがよくわからない。サスペンスなんかでも、いかに殺人を偽装したり、アリバイを作ったり、ってことに重点が置かれてるから、なんで、わざわざ殺人事件を発覚させる必要があるんだろ?
「いい? 御遺体が見つからなければ、その人は『行方不明(ゆくえふめい)』扱いになって、通常でも七年間は『生きている』ことになるのよ? それじゃあ困るでしょ、保険金の請求とか?」
「……あ」
 そうか、そういうことなんだ。御遺体がなければ殺人事件として帳場は立たないけど、それって同時に、いつまでも「生きている」ことにもなるから、死亡保険金の受け取りや遺産相続なんかは、することができない。だから、最初は吹雪く外で凍死したことにするつもりだったけど、絞殺してしまったから、やむを得ず外に捨てるのをやめた。多分、御遺体を動かすと、床に付着した汚物なんかの痕跡で、ペンション内で何かがあったことが疑われるから、そんな事態になるくらいなら、はじめからここで誰かに殺されたことにしようってことになったのかも知れない。
「ついでにいうと、犯行は他人の目があってはならない。言い換えると、一晩中監視しなければならないわけで、となると、一晩中起きていてもおかしくない状況の人が怪しいってことになる。そもそも、一晩中起きていて、こんな異常に気がつかないってことが不自然だしね」
 僕の脳裏に、徹夜で酒を飲もう、っていう人たちがいたことが思い出される。
 まさか、ね。

 吹雪は朝には、やんでいた。
 で、警察が来て捜査して、その後、どんな人物が捕まったかは……。

 とりあえず、年明けには退会届を出そうとしていた僕が、その気持ちを翻したってところから、想像してほしい。


(会長の「探偵物語」・了)


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