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作品名:「SagaV 神氣学園滅神傳」 作者:ジン 竜珠

第48回 陸之傳 大祓・伍
 俺が唱えたのは「十(と)種(くさ)の神(かむ)宝(たから)」の秘呪だ。その中に「八握の剣」というのがある。「六十センチほどの長さの剣」の意味だ。だが、今、俺の拳で輝いている剣の形状は違う。右の拳を中心にして、七方向に紫に輝く輻射(スポーク)を輝かせている剣身は、天に向けて二メートルはあるだろうか。
 この十種の神宝は、死者をも蘇らせる、とされる究極の秘呪だ。今の俺にはもちろん扱えるものではない。おそらく、爺さん……今の宗師レベルでないと、その真価は引き出せないのではないか。
 それはともかくも、死者を蘇らせる、ということは、生と死の垣根を取り払う、ということでもある。
 つまり、この剣は黄泉津大神を倒しうる力を持っているということだ。
 それに気づいたらしいイザナミが、驚愕をその顔に貼り付けている。俺は剣を構えて、一気に間合いを詰めた。
「珠璃を、離せッ!!」
 振り下ろした剣が、イザナミの腕を切り落とす。イザナミはかわしたつもりだったろうが、よけきれず、両腕が肘から切断された。イザナミが飛び退(の)くと、珠璃が体勢を崩して、倒れ込む。それを左腕で抱えると、俺は再び剣をイザナミに振り下ろす。
 イザナミも、それをかわし、何らかの咒力を放ってくるものの、俺には一向にダメージを与えられない。
 俺の前に、その都度、光の盾のようなものが展開されて、電子音にも似た残響音とともに、イザナミの咒を弾(はじ)いているのだ。俺にはわかる。あの光の盾は「十種の神宝」の一つ「品物比礼(くさぐさのもののひれ)」だ。これは、あらゆる邪悪なものを防ぐとされる神宝だ。
 神宝の前に、黄泉津大神が、まったく手が出せない。一方、剣がイザナミに触れてもいないのに、その邪気を確実に削いでいくのを悟った俺は、気合いもろとも、一気に剣を突き込んだ。
 どうにも喩えようのない、醜い叫び声を上げ、黄泉津大神が天井近くの壁に縫い付けられる。俺はヤツに動く隙を与えないよう、剣に氣を送り続けた。
 だが、戦いとイザナミの攻撃によるダメージが蓄積している身には、かなり堪える。俺は歯を食いしばって、剣を支えた。俺の体から、全生命が剣に流れ込んでいく。だが、まだ、イザナミを壁に縫い付けるだけで、とどめを刺したわけではない。いくつかの神歌や咒歌が頭の中を巡ったが、どれも決め手に欠けるように思えた。
 こうしている間にも、俺は消耗していく。
 ……だめだ、もう、剣が維持できない。そう、思った時だった。
 何か、いや、誰かが俺の背に体をあずけてきた。確認するまでもない、珠璃が俺に抱きついてきたのだ。
「ボクの命を使ってくれ、竜輝」
 珠璃が静かに言う。
「でも、お前……」
 俺の言葉を制するように、珠璃が言った。
「竜輝(キミ)と一つになれるなら、本望さ」
 その言葉に、再び、俺の中に神氣が満ちあふれていく。
 俺は神氣を剣に込めた。その時、俺の頭に一つの祝詞が浮かぶ。
「高(たか)天(あま)原(はら)に、神(かむ)づまります、皇親(すめらがむつ)神呂岐(かむろぎ)神呂美(かむろみ)の命(みこと)もちて……」
 そう、大祓祝詞(おおはらえのりと)だ。
 これは神道で重視されているのはもちろん、いわゆる拝み屋さんの多くが儀式などに取り入れている。
 つまり、流派の垣根を越えて奏上されているものなのだ。
 大祓の神氣を受けて、黄泉津大神が壁にめり込んでいく。
 俺が大祓を唱え終えた時、この空間の光源となっている「何か」が、いっそうの輝きを放った。それと同時に、壁といわず、天井といわず、崩落していく。どうやら、本当に「千引きの岩」が出来ていくようだ。地下空洞が崩れいく中、黄泉津大神が憎々しげに言った。
「美しき我(あ)が兄夫(なせ)の命(みこと)、かくせば、汝(いまし)の国の人(ひと)草(ぐさ)、一日(ひとひ)に千頭(ちかしら)絞(くび)り殺(ころ)さむ」
 俺は静かに応えた。
「美しき我(あ)が汝妹(なにも)の命、汝(いまし)然(しかと)せば、吾(あれ)、一日に千五百(ちいほ)の産(うぶ)屋(や)、立てむ」
 崩れゆく空洞、巻き上がる土煙。やがて、黄泉津大神の姿も見えなくなり、俺の視界も閉ざされ、そして、意識もフェイドアウトしていった。


(陸之傳 大祓・END)


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