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作品名:「SagaV 神氣学園滅神傳」 作者:ジン 竜珠

第43回 伍之傳 落日・肆
 椅子に座って待っていると、紗弥が部屋に入ってきた。
 入室してきた紗弥は、しかし、一人ではなかった。一人の若い女、初老の男、そして、若い男と一緒だ。若い女は見覚えがある。若い女はミハシラ、その経理部所属の如月(きさらぎ)双(ふた)葉(ば)だ。彼女は、真吾と同じく次期社長の椅子を狙う、会長ジュニアの派閥に属しているが、会長ジュニア派は基盤としては非常に脆弱で、瓦解寸前らしい。基本的に清廉潔白をモットーにしている会長ジュニアは、人柄はそれなりに立派らしいが、野心に乏しく、そもそも企業人には向かない。双葉も、できるならもっと有力な派閥に移りたいところだろうが、彼女自身、会長の姪であり、そういう「しがらみ」から脱することが出来ないのだろう。
 初老の男は、見たことがない。髪は少なめだが、禿(とく)頭(とう)というほどではない。白髪交じりというより、半分が白くなっている印象だ。
 若い男も面識はない。背は高く百九十センチぐらいはあるだろうか。体つきはしっかりとしていて、いかにも「体育会系」だ。そして、どこか威圧感さえ感じさせる。かけている眼鏡はファッショナブルなものとはいえないが、それなりにお洒落を意識したもののように見える。
 二人とも、サマースーツを着ており、ちょっと見た印象では「お堅い職業」に就いていそうだ。
 何者かと、頭の中にある「交遊録」を検索してみるが、該当する人間が見当たらない。
 不意に、初老の男が言った。
「お時間、よろしいですかな?」
 気さくな笑みを浮かべて、スラックスのポケットに手を入れ、何かを出して開いて見せた。その「何か」は紐で、そのポケットに繋がっている。
「県警捜査二課の村(むら)山(やま)といいます」
「同じく、樽(たる)井(い)です」
 若い男も、IDを開いて見せた。
 村山がIDをポケットにしまいながら、言った。
「護代真吾さん、あなたには業務上横領の嫌疑がかけられています。千京署でちょっとお話を伺えると助かるのですが」
 その言葉に樽井が内ポケットから封筒を取り出す。その封筒から出した紙を受け取ると、村山が開いて見せた。
 なるほど、と、真吾は自虐の笑みがこぼれるのを禁じ得ない。嫌疑、とはいっても、裁判所がその紙切れを発行するに足るだけの証拠は固まっている、ということか。
 そう思っていると、紗弥の姿が目に入った。今日のことを知らなかったはずはあるまい。さりげなく険のある視線を向けると、紗弥は平然とした表情で言った。
「お忘れかも知れませんが、私は理事長が個人的にお雇いになった、いわば私設秘書です。そして、今の私の雇(こ)用(よう)主(ぬし)は、護代朝(とも)泰(やす)氏、つまりミハシラの現社長ですわ。……雇用契約書をご覧に入れましょうか? 契約事項の都合上、本日までお目にかけることは出来ませんでしたけど」
「いや、不要だ」
 シニカルな笑みを浮かべてやる。そして、思い切り悪意を込めて言ってやった。
「日和(ひよ)ったな?」
 だが、それに動じることなく、紗弥は言う。
「心外ですわ。私としては社会正義を全うしたつもりですのに」
 まったく応えていないようだ。そして紗弥は言った。
「理事長、あなたは目に見える結果を急ぐあまり、失態を演じられましたわね。……あなたは社長に、ミハシラ・メディックスの専務人事について、社長に『援助』していただくよう、『お願い』なさったそうですね? ですが、そんな人事は認めるわけにはいかない、と、社長は断られた。にもかかわらず、そのような人事が強引に行われた。そこで、社長は、あなたが不穏な動きをしているのではないか、とお疑いになって、私に調査をお命じになったのですわ」
 なんとなく、ではあったが、真吾の脳裏にパズルのピースのようなものが組み上がっていく。
「私が選ばれたのは、私設秘書、つまり半ば外部の人間で、動きに気づかれるおそれがなかったこと。おかげで、私はいろいろと動くことが出来ました」
 その言葉に、わずかに、双葉が誇らしげな笑みを浮かべる。確かに、会長ジュニア派は泡沫の派閥に過ぎない。だから重視していなかったし、事細かに動きを調べることはしなかった。だが、裏を返せば、どのような人脈を持ってくるか、注意するべきでもあったのだ。
 そのあとを引き継いだのは、村山だった。
「義務でしてね、一応、権利を言っておきます。あなたには黙秘権があります。自己にとって不利益となる……」
「いや、結構です」
 言いかける村山を制し、真吾は立ち上がって言う。
「すみませんが、ちょっとお時間がいただけますか? 身支度を調えたいもので」
 この言葉に、村山の表情が、かすかに険しくなる。
「……かかりそうですか?」
 言葉にはしなかったが、村山は真吾が逃亡、あるいは自殺するのではないか、と危惧しているのであろう。
 冗談ではない。確かに自分の野望が潰えて無念なのは事実だ。ここまで来るのに、十年以上、費やしたし、それまでの「学習時間」と「手間」をも考えれば、ここで退場というのは、あまりにもあっけなさ過ぎる。
 だが、工作に使った、七百万にも満たない資金のせいで、指名手配をされたり、ましてや死を選ぶなど、愚の骨頂だ。
 せめて散り際ぐらいは潔くありたい。だから、真吾はこう答えた。
「二、三分もあれば」
 真吾の表情をどう受け取ったか。村山は、
「外でお待ちしてます」
 と言い、樽井を連れて退室した。
「事務引き継ぎは、私が整備しておきますわ」
 そう言って、紗弥も双葉とともに出て行った。その去り際の表情が、複雑なものだったように思えたが、今の真吾にはどうでもいいことだった。
 二人が退室する時、開いたドアの向こうに村山のようにスーツを着た男が三人ほど見えた。


(伍之傳 落日・END)


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