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作品名:「SagaV 神氣学園滅神傳」 作者:ジン 竜珠

第41回 伍之傳 落日・弐
 刀を鞘に収めると、瑞海宗師が五人を見据えた。
「何ゆえ、このような愚かなことを……」
 言いかけて、何かに気づいたようだ。じっと、五人を見渡す。そして、嘆息した。
「なんということだ。お主ら、先祖代々、そのようなモノを背負わされておったとは」
 宗師の言うことが今ひとつ理解できない。だが、何かをしなければ「自分」の為そうとしていることは、叶わない。
 こう考えて、ふと、磐坂の脳裏に、ある疑問がわき上がる。
 何かを為そうとしている「自分」とは、一体、何者なのか?
 だが、それに関して思(し)惟(い)を巡らせている場合ではない。磐坂は、ほとんど反射的に向かっていた。
 しかし、宗師は特に構えるでもなく、気合いとともに右の裏拳を突き出す。このような狭い空間で、突進していく行為が、如(い)何(か)に愚かしいことであるのか、磐坂はその身をもって思い知った。どのような経路を辿って、どこへ向かうか、限定されている上、相手に容易に読めてしまう。宗師に届く二メートルほど手前で、磐坂は目に見えぬ「何か」に押し戻され、その勢いで四人を巻き込んで屋外に噴き飛ばされた。
 宗師がゆっくりとこちらへと、歩み寄る。
「よかろう。これを見抜けなかったのは、ひとえに歴代宗師の罪。今、この場でお主らが背負いし『業(ごう)』を落としてやる。それが、互いの罪滅ぼしであると、心得よッ!」
 言うが早いか、宗師が玄関で跳躍する。その勢いで、天井を突き抜け、屋根をもぶち破って、外へ出た。夜空を背に身をひねった瑞海宗師が五人の塊の中に、着地、否、「着弾」する。その衝撃に噴き飛ばされそうになった五人だが、まるで宗師と目に見えぬ綱で繋がっているかのように、一定の範囲でそれは留まった。
 それは、空から見ると宗師を中心として、五人が五方向に放射状になった形、正五角形に似ていた。宗師が、静かに、しかし力強く神歌を唱える。
「霊(たま)幸(ちは)う、神の社(やしろ)は、吾(あ)がこころ、心の奥に、神降(くだ)りませ」
 その瞬間、磐坂の身が、いや、磐坂たちが金縛りになったかのように、動けなくなる。呼吸さえままならなかった。
「天(あま)照(てらす)皇(すめ)大神(おおかみ)の、のたまわく、人は皆、天(あめ)が下(した)の神(みたま)物(もの)なり……」
 唱え奉(たてまつ)るは「六(ろつ)根(こん)清(しよう)浄(じよう)之(の)大(おお)祓(はらえ)」。清々しいとさえいえる氣が、五人の周囲を満たしていった。
 立ち上がりながら、瑞海宗師が次なる祝詞(のりと)を奏上する。それは「身禊(みそぎ)祓(はらい)詞(のことば)」に似ていた。五人の周囲にある「氣」が、その身の中に浸透していく。それにあわせて、五人の中から「何か」が押し出され、浄化されていくのを感じた。
 祝詞の奏上が終わった時、五人は、まさに「夢から覚めた」ような心持ちになっていた。先刻までのことが、本当に「夢」であったとしか思えない。
 振り返ると、宗師は柔らかな笑みを浮かべていた。
「主らの業は、正確には、すべて落ちてはおらぬ。じゃが、ここから先は、主ら自身で、なんとか出来るであろう?」
 言葉がない。天宮瑞海という男の、懐の深さを改めて感じ、磐坂たちは跪(ひざまず)いて頭を下げた。
 その直後だった。
 磐坂たちでさえ感じられる、微かだが、濃密な「死の香り」を伴った「氣」が、五人から抜け出て、いずこかへと流れたのだ。
「しまったッ!?」
 宗師が歯がみをする。
「よもや『呼び戻す』とは!!」
 宗師の言うことが、よく理解できない。そんな思いが顔に出たのだろう。宗師が苦々しげに言い捨てた。
「アレは、黄泉津大神のカケラだ。アレは主らの先祖に取り憑き、代々、主らを支配して己が復活を手助けさせようと、画策しておった。じゃが、今、儂がその働きを抑えたのでな。あとは主らが自修祓にて祓えば、事足りると思うておったが」
 そのあとを、佐久田が続ける。
「おそらくは、呼び戻して、御柱を『外から』破壊しようとしているのでございましょう」
 その言葉に、磐坂たちの間に戦慄が走る。自分たちは、なんということを企んでいたのだろう。「死」の女神を解き放つとは……!
 瑞海宗師は、御柱のある方角を見て呟いた。
「すまぬ。結局、お前に任せることになってしまった。頼むぞ、竜輝……」
 邪気が流れていったせいでもあるまいが、雲行きが急速に怪しくなり、やがて、雨が落ち始めた。


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