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作品名:「SagaV 神氣学園滅神傳」 作者:ジン 竜珠

第36回 肆之傳 Count down・参
 今日、「何か」が「動く」ことはわかっていた。だから、それなりの準備をした。午後からは建物が極力、無人になるよう手配をしておいたし、連絡体制も確認しておいた。だが、まさか、このような事態とは思ってもみなかった。よもや、このような合(キ)成(メ)獣(ラ)の製造を研究していたとも思えないが、少なくとも現在の人類が持つテクノロジーで、起こりうる事態とも思えない。
 何にせよ、この場をなんとか出来るのは、ここには、菅井一人であった。
 菅井は静かに、咒氣を巡らせる。
「トホカミエミタメ、ハラヒタマヒキヨメタマヘ。神火清明、神水清明、神風清明。八(や)剣(つるぎ)や、波奈(はな)の刃(やいば)の、この剣(つるぎ)、向かう悪魔を、薙(な)ぎ払(はら)うなり」
 チャージされた咒氣を、両手両足に流し、菅井は次なる神歌を唱える。
「今月今(こ)宵(よい)の、このことを、しっぺい太郎に知らせるな」
 合成獣を退(しりぞ)ける術など、菅井は持ち合わせてはいない。だが、胴体が狒々であるということは、猿(さる)神(がみ)を討つ咒歌なら、あるいは効果があるのではないか。そう思い、菅井は咒歌を唱えた。そして。
 一気に相手の懐に飛び込む。まるで銃弾のようなスピードと破壊力に、怪物は菅井を抑えきれず、その勢いのまま、背中から部屋の壁にぶつかった。それでも勢いを制御することが出来ず、そのまま壁を破壊して、外に転がり出る。
 怪物に体勢を整える暇(いとま)を与えず、菅井は身をひねって、怪物の胴体をジャンプ台にし、宙高く舞い上がる。そして、さらに身をひねって、回転力を右の拳に乗せ、怪物の腹部にたたき込む。数瞬遅れて、怪物の周囲の地面が、まるで何かが爆発したかのように、クレーター状に砕けた。
 一瞬、しとめたと思ったが、怪物は、たいして効いたようでなく、立ち上がり菅井を殴り飛ばす。
 なんとか腕でガードしたが、怪物の拳には膂(りよ)力(りよく)だけではない、別の力も働いているらしく、全身に悪寒と、熱さが走る。殴り飛ばされながら自ら跳び、宙でトンボを切って体勢を整える。
 だが、着地した瞬間を見計らったかのように、怪物が突進してきた。咄嗟に両腕でガードしたものの、今度は菅井の方が怪物の勢いを殺しきれず、そのまま、噴き飛ばされる。そして、そのままの勢いで、ブロック塀に背中から激突した。
 瞬間、呼吸が止まった。遅れてやって来た痛みも、それを上回る衝撃に打ち砕かれる。
 怪物の腕が、激流を流れてきた丸太のように、菅井の胴を薙いだのだ。
 地に転がりつつも、なんとか失神という事態だけは防ぎ、呻きつつ菅井は片膝立ちになる。だが、ここまで、といってもよかった。怪物の強さは、想定外だったといってもよい。一撃一撃に何らかの呪力が働いている。これがただの膂力だけなら、まだ菅井にも勝機はあった。
「ここまでか」
 覚悟を決めた時だった。怪物が、まるで菅井には興味を失ったかのように、彼には背を向け、そのまま、走り去る。どうやら、目抜き通りの方に向かったようだ。だが、今の菅井に追撃するだけの力は残されていない。こういう体技的なことには、菅井はあまり自信を持ってはいない。
 だが、今はそんなことを悔いている場合ではない。痛み、そしてこみ上げる嘔吐感をこらえながら、菅井は研究室に戻る。そして、電話の受話器を取った。自分のスマホが壊れていることは、とうにわかっていた。
 外線ボタンを押し、あるナンバーをコールする。
「……もしもし、西谷さんか? すまない、抑えられなかった。そっちに流す。あとは……!」
 そうとだけ言って電話を切ると、菅井は左手の人差し指の先をかみ切るようにして傷をつけた。その指を、怪物が去って行った方向に向かって伸ばし、咒を唱える。
「この赤(ちの)水(みち)は、血の水ならで、天(あめ)に坐(ま)す、御(み)祖(おや)の神の、御(み)惠(めぐみ)の水」
 すると、菅井の霊眼にのみ、滴(したた)る血が、まるで制御をなくした放水中のホースのようにのたうち、怪物に伸びるところが映る。その先端が怪物に届いたと感じた瞬間。
「天(あめ)地(つち)の、中ゆき通う、風(ふう)神(じん)の、感(かま)け給える、荒(あら)魂(みたま)の爪」
 唱えると同時に、一気に引っ張る。思い通りの方向へと誘導できたことを感覚で知ると、菅井はそのまま、くずおれ、失神した。

「了解。あとはこちらで」
 菅井からの電話を受け、スマホを傍(かたわら)の植え込みに置いた、その影は制帽に制服姿。
 千京署の生活安全課所属・西(にし)谷(たに)敦(あつ)也(や)巡査部長であった。


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