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作品名:「SagaV 神氣学園滅神傳」 作者:ジン 竜珠

第17回 弐之傳 欲望という名の媚薬・参
 別津五大高弟の一人、磐坂 空心(いわさか くうしん)は自宅の自室で一冊の和綴じに目を通していた。
「黄泉津御柱祝詞(よもつみはしらのりと)」。
 これが、その和綴じ本の表題である。記したのは先祖の一人であり、かつて別津五大高弟の一人に数えられていた磐坂千三郎(いわさか せんざぶろう)。手書きのものであり、奥(おく)書(がき)には本来「口伝」も「伝書」も禁じられた内容であることが注意されている。しかし、この書には秘伝ということで記されていない内容がある。否、それどころか、ここに記載されている「祝詞」は不完全なものなのだ。奥書によれば、この祝詞は複数の人間でそれぞれのパートを受け持つ類(たぐい)のもので、千三郎自身も自分が受け持つ箇所以外は完全にはわからないらしい。それは宗師が唱える部分についてで、「心中修唱(しんちゅうしゅうしょう)」と呼ばれる部分については、宗師以外、知るものはいない。
「御柱を解き給う『祝詞事』か。ご先祖も伝法を惜しんで記さなかったわけではあるまい。と、なれば、やはり当時の宗師からは伝授されていない、ということであろうな」
 我知らず唸り、空心はもう一度、伝書を読み返す。確かに空心は実力も霊覚も、他の師範よりも頭抜けている。だが、こういう「書から過去の情報を読み取る能力」については千代澤の方が優れている。そのことは認めているし、こだわりもない。
 だが、やはり、できるなら己の腕で突き止めたいと思うところもあるのだ。
「いや、やはり、それぞれの分(ぶ)に応じた役割というものがある。ここは、千代澤を信じよう」
 そう独り言(ご)つと、空心は書を書棚の隠し扉の奥にしまい込むのであった。

「ふうん、なんかたいへんそうだな、お前のところも」
 凉(りよう)さんが、紅茶の入ったカップ片手に、ピリ辛風味の珍味を口に放り込む。
 ……うん、人の嗜好に口出しちゃいけないのはわかってるけど、紅茶のお茶請けに珍味はどうだろう?
 そんなことは全く気にかけない様子で、紗弥(さや)さんがマカロンを一口かじって答えた。
「そうなのよ、この九月の人事でミハシラ・メディックスの志賀専務が解任、大(おお)木(き)総務部長が事実上の左遷、で、新専務に座ったのが、なんと、『ミハシラ』の中城人事課長同格」
「中城って、確か理事長のライバルだっていう」
 という凉さんの言葉にうなずいて紗弥さんが続ける。
「ライバルっていうか、専務派のエリートね。私が把握できている限りじゃあ、専務さんとは、将来的に海外支社の支社長のポストがどうのこうのっていう『密約』があったみたいだけど、それを蹴って理事長派に転向したみたい。とにかく一企業で、こんな人事がいっぺんに起きるなんて、ただ事じゃないわ」
 午後九時を二十分ばかり過ぎてウチにやって来たこの二人は、一介の高校生である俺の前で、なにやら生臭い話に興じていらっしゃる。
「あの、どういう用向きでいらっしゃったのか、そろそろお話しいただけると有り難いのですが?」
 困惑気味に俺が言うと、凉さんがあっさりと言った。
「胡桃(くるみ)のヤツ、今夜帰ってこないんだろ? 寂しいんじゃないかと思って泊まりに来てやったんだぜ?」
「……本気なんだったら、グーで殴りますよ?」
 俺の言葉にひとしきり笑うと、凉さんはまじめな顔で言った。
「お前から預かった例の薬剤な、科学的化(ばけ)学(がく)的には、まだわかんないことだらけなんだが、とりあえず霊査で面白いことがわかった。あれには、どうやら、金(きん)丹(たん)が絡んでるな」
「金丹? まさか、九(きゆう)転(てん)還(げん)丹(たん)ですか?」
 九転還丹っていうのは、金丹の別名みたいなものだ。厳密にはイコールじゃないんだが、とりあえずは同じようなものだってことで理解しておいてくれ。


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