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作品名:「SagaU 神氣学園閑居傳」 作者:ジン 竜珠

第35回 肆之傳 罪を継ぐ者
 天気予報の通りになった。
 午前中は晴れ渡っていたというのに、正午を三十分ほど過ぎた辺りから雨雲が天を覆い始め、さらに十分も経つと、パラパラと雨粒が落ちてきた。
 冥神(みょうじん)のメンバーである栂 亨(つが とおる)は、冥神のベースの一つである、とある民家にいた。
 窓の外の雨を見ていた時、ふと、十年近く前のある出来事を思い出した。

 十年ほど前、彼は天宮流のある師範のもとで修行をしていた。彼の父も天宮流の高弟であったが弟子は取らず、また高弟の中でも「別格」とされる家柄でもあったため、半ば「武者修行」的な意味合いで、ある師範のもとで修行をしていた。
 そして、ある時、一人の兄弟子が問題を起こした。その問題について、栂は詳しくは知らない。ただ、その兄弟子のプライベートに深く踏み込んだことだったらしいこと、それに関係してその兄弟子がその道場では「禁呪」扱いになっている、ある呪術を行使したらしいことは、その兄弟子自身が言っていた。
 荒れに荒れたその兄弟子を止めようとして、栂は怪我を負った。兄弟子とは言え、当時の実力差は、それほどなかっただろうと、栂は自負している。ただ、「相手に怪我を負わせてはいけない」と栂自身が思っていたこと、そして何より同じ釜のメシを食った兄弟子に拳や呪術を揮う(ふるう)などできない。栂はそう考えていた。
 油断だったとは思わないが、その考えが栂の動きを鈍らせ、結果、栂は負傷した。重傷とまではいかないが、それ相応の養生を必要とされる怪我であったため、そして禁呪を使った責を問われて、その兄弟子は破門された。
「確か、こんな風に雨の降る日だったな……」
 破門された日、兄弟子は雨に濡れながら栂が休養を取っている家まで来て、その家の前で一礼して去って行った。
 その背中は、どこか小さく見えた。

 何かの因果だろうか、その兄弟子は今、ミハシラの関係者となっている。そのことは同じ冥神のメンバーである石動 紗弥(いするぎ さや)から聞かされた。いずれまた、相対する関係になるかも知れない。
「コーヒー、いかがですか?」
 そんな事を考えている時、冥神メンバーである屋敷 穂津深(やしき ほづみ)が言った。その言葉で現実に帰った時だった。栂の携帯電話が鳴ったのだ。ナンバーは冥神のメンバーからのものだった
「俺だ。どうした? ……そうか。……わかった、すぐそっちに行こう」
「どうかしましたか?」
 不安げな表情の穂津深に、栂は自分でも事務的だと思う口調で言った。
「菱盛山で、魔怪召喚の陣が見つかったそうだ。喚び出されていたらしい魔物は討伐済みだそうだが、その陣についても確認の必要がある」
「私もお供致します」
 姿勢を正し、穂津深が言うと、栂も頷いた。その時、ふと何気なく思いついて、栂はこんな事を聞いた。
「屋敷、お前、『栂』という名字について、単純にどう思う?」
「は? 仰る意味が……」
「『別津(ことつ)五大高弟』の一ということは気にしないでもいい」
 この言葉に何か思うところでもあるのか、言いかけた言葉を飲み込むような仕種を見せてから、穂津深は答えた。
「栂という樹木がありますよね。あれがもとになっているのかな、ぐらいでしょうか」
「そうだろうな」
 と、自嘲を浮かべてから栂は言った。
「最要祓(さいようはらい)は知っているな? その中の一節に『罪という罪、咎(とが)という咎』というのがある。『つが』とは、俺の先祖が明治の戸籍制度の際、『つみ・とが』を縮めたものに『栂』という字を当てたのだというのを、聞かされている」
「は? どういう意味ですか?」
「つまり、我が家系は罪を背負っているのだ」
「それは考えすぎです!」
 力一杯否定した穂津深に苦笑を返すと、栂は出かける支度をするよう促した。
 考えすぎかも知れない。しかし、自分のせいで兄弟子が破門に追いやられたと考えられなくもない。だとすると、人の一生を狂わせたかも知れないという点で、罪を背負っているのではないか。
 こんな雨の日は、時折、そんなことを栂は思うのであった。


(肆之傳 罪を継ぐ者・END)


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