「ちょっといいかい?」 と、珠璃が言った。なんとなく不機嫌そうだ。 ま、そりゃあ、そうだろうな。ただでさえ、珠璃にとっては(おそらく)不本意なシチュエーションの上、「密着」とかってデジカメ持ったのがついて回ったりしたら、いい気分のはずがない。 珠璃は稲桐さんの前に立って言った。気のせいか、後ずさりしたように見える稲桐さん。注意するんなら、ほどほどにしろよ、珠璃。 「稲桐さん、だったよね? キミ、さっき、なんて言ったかな?」 「え? さ、さっき、ですか? え、と」 と、考え始める稲桐さん。多分、何が珠璃の逆鱗に触れてしまったのか、思い起こしているのだろう。これまでの言動すべてが、そうだったと彼女は気づけるだろうか。 「キミは大きな間違いをおかしているんだよ」 「ま、間違い、ですか?」 ほんの少しだが、稲桐さんの声に怯えが感じられる。適当なところで、俺がセーブ役に回った方がいいだろうな。 「いいかい」 と珠璃は言う。 「キミはさっき、こう言った。『美形はみんなの共有財産』だと。……違うね。美形は、全部ボクのものさ!!」 「いきなり、何を言い出すかな、お前は!?」 いかにもヅカ風のポーズをつけている珠璃に、思わずツッコミを入れた後で、俺は稲桐さんに言った。 「密着がどう、とかいうのは感心できないけど、一緒に遊ばないか? せっかくだしさ」 人数が増えれば、それだけ「友だちが集まって遊んでる」感が強くなるだろう。……俺以外、全員、女子だってのはとりあえずおいといて。 「望むトコロですッ!」 なんだか、やたら鼻息荒く稲桐さんが答える。 「それじゃあ」 と、ありすがゲーセンの看板を見て言った。 「まずはゲーム勝負なのです!!」 「勝負」という単語に、ものすっごくイヤな響きを覚えた俺は速攻で却下した。 「とにかく、今日は普通に遊ぼうぜ!」 そんなわけで、まずはゲーセンに入ることになった。
で。 俺と珠璃と戸賀中はクレーンゲームに、ありすと稲桐さんはプリクラに行ったのだが。 「……プリクラマシンのカーテンの隙間から、デジカメがこっちを向いてるんだが」 呟いた俺に反応した珠璃は、苦笑いで応える。 「まあ、ここは見逃してあげようよ」 他のお客さんの迷惑になってるわけではないし、いいといえば、いいんだろうが。 「あ、あのネコのぬいぐるみ、いいと思わないか、竜輝?」 珠璃が指差す先にあるのはアメショーがモデルと思しきネコのぬいぐるみだ。しかし。 「ちょっと、取り辛ェ位置にあるな」 俺はゲーム筐体の四方から、ターゲットのぬいぐるみを観察する。 「まずは取り出し口近くの恐竜を出して、あのワン公をどかして、ガ○ャピンモドキを引っ張り出して、ネコのタグに引っかけてあそこまで出して……」 いろいろと頭の中でシミュレートしてみるが、このシミュレーションがすべて成功したと仮定しても、最低七回は必要だ。となると……。 「よし、待ってろよ、珠璃」 俺はコインを投入してアームを動かした。そして。 ゴトリ、と音を立ててアメショーのぬいぐるみが出てきた。予定通り、七回で。 「ほらよ、珠璃」 と、俺はぬいぐるみを珠璃に渡す。 「わあ。有り難う、竜輝!!」 実は無類のネコ好きの珠璃が、渡されたぬいぐるみを、ギュッと抱きしめた。
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