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作品名:「SagaU 神氣学園閑居傳」 作者:ジン 竜珠

第26回 参之傳 友、来たる・参
「ふわあ、結構歩くねえ、天宮くんの家まで」
 ふうふう息を切らせながら、戸賀中は軽乗用車一台が通れるかどうかという、細く曲がりくねった坂道を上る。俺は慣れたものだから(それ以前にこれ以上の急坂を駆け上がる修行とかさせられてたから)何でもないが、やはり普通の人には、結構キツイらしい。そしてその坂道を登り切ると、平坦な道が続き……。
「え……? あのおっきいお家が、天宮くんの家?」
 と、戸賀中は目を丸くした。
「うん、まあね」
 と答えておく俺。確かにでかい家だからなあ。前いたところでは、「天宮流神仙道宗家」っていうのを偽装する意味もあって、離れたところに普通の一軒家を建て、そこが俺の住んでる家ってことにしてたからなあ。
 ちなみに、俺の転校の理由は「両親が揃って海外赴任。数年間帰ってこれないので、俺の一人暮らしを不安に思った両親により、姉のいる千京市に引っ越すことになった」っていうものだ。……まあ、あながち嘘ではない。実際、オヤジは世界中を巡る「白修祓(つくもしゅばつ)」っていうのに出かけてるしな。
「まあ、結構古い家だし、地価も安いって言ってたな」
「でも、すごいよ。豪邸だよ!」
 戸賀中は、何やら感動している様子。あんまり突っ込んだところまで考えられると、ややこしい話になるので、俺はそのまま、戸賀中を木製の門の中へと招き入れる。
「あれ? 姉貴の車だ。帰って来てるんだな」
 俺たちは夏休みだが、今日は平日。社会人をやっている姉貴はまだ職場にいる時間だ。
「お。お帰り、竜輝」
 姉貴もちょうど帰って来たところか、車から夕飯のおかずらしき総菜や材料が入っていると思しき、買い物袋を出している。
「今日は、どしたの? 早いじゃん」
「うん。この間から残業が続いてたじゃん。今、不況のせいか残業代つかなくてさ、そのまんまだと組合とかがうるさいから、残業した時間を独特の計算で、夏の間だけ休暇に振り替えるっていう代替措置をとってんのよ。そしたら、あたしの場合、三時間ほど半端が出てきちゃってね。それで、今日それを消化したってこと。……ていうかさ、竜輝、誰、その小柄だけどグラマラスなかわいい女の子は?」
 姉貴が戸賀中を見る。
「はじめまして、お姉さん。私、前、天宮くんが通学していた雲澤(くもさわ)高校でクラスメートだった、戸賀中 千草といいます」
 そう言ってお辞儀する戸賀中を見て、姉貴も軽く頭を下げる。
「それはそれはご丁寧に。で、この街には観光か何かで?」
「いえ、あの、それは……」
 急にどもり、俺の方をチラチラ見ながらモジモジする戸賀中の頬は、イチゴジュースで染めたように紅くなっている。
 それだけで姉貴は察したらしい。不意に俺に言った。
「そういえば竜輝、今日は先生がおいでになる日でしょ? 戸賀中さんはお姉ちゃんが送っていくから、あなたは部屋のお片付けをお願い」
「え? 先生って、なんのこ……」
「ごめんなさいね、戸賀中さん。今日はお客様がお見えになるの。もしどこかに宿泊しているんだとしたら、あたしが送っていくけど?」
 俺の言葉を遮り、姉貴がそんなことを言う。
「え? そうなの、天宮くん?」
「え!? あ、ああ、そうなんだ。時間的にはちょっと余裕があるけどさ」
 ここは姉貴に話を合わせておいた方がいいだろう。
「そうなんだ……」
 と、少し落ち込んだ様子を見せたものの、顔を上げて戸賀中は言った。
「えっと、ビジネスホテルなんですけど」
 と、あるホテル名を上げる。確か北斗(ほくと)にそんな名前のホテルがあったような覚えがあるな。なるほど、だから、さっきのバスで鉢合わせになったのか。あのバス、北斗を通って隣街まで行ってるからな。
「それじゃあ、彼女はあたしが送っていくから、竜輝はこれをお願い」
 と、姉貴は俺に買い物袋を寄越すと、戸賀中を車に乗せた。発進する車を見ながら俺は、頭を掻いた。
「たまにいるんだよな、呪術の『効き』が弱い人が。しかし、こういう行動に出たのは、戸賀中が初めてだな」
 そして俺は鍵を開け、家の中に入った。


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