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作品名:「SagaU 神氣学園閑居傳」 作者:ジン 竜珠

第23回 23
 幸い、純弥は命に別状はなく、傷も見た目ほど酷いものではなかったが、精神的ケアも含めて一ヶ月の入院を余儀なくされた。
 これだけの傷害事件だったにも拘わらず、警察沙汰にも新聞沙汰にもならなかったのは、裏で天宮宗家が手を回したからだというのは、後に知った。
 そしてしばらくして響堂家は引っ越した。引っ越した先で、さらに零司は天宮の関係の家に預けられることになった。当時、妹は零司がしでかしたことのせいでイジメに遭っており、家庭内での零司との仲は険悪なものになっていた。
 だから、他の家に預けられるということは、父母のせめてもの気遣いだったのだろうと思う。
 そもそも、純弥がどういうつもりであんなことをしたのか、今となっては知るよしもない。彼からすれば、零司の心を千々に乱すことで溜飲を下げたかったのか、それをもとにした「からかい」の対象にしたかったのか。いずれにせよ、大それた事ではなかっただろうと思う。
 それよりも問題は零司の「心」と「念」だ。電話をかけて留守だというのは、よくあることだし、体育倉庫に行った時も、冷静に見ればそれがフェイクであったと気づいたはずだ。
 つまり、数年に及ぶ修行は、こと精神的な面においてはまったく進歩がなかったということだ。
 そして変化が一つ。その日以降、零司は拳や脚などに「咒気」を通した格闘ができなくなってしまったのだ。気を通すだけならできなくはないが、それを格闘術に変換できないのだ。
 預けられた先で教えられたのが、自分の体でなく器具に咒力を通す方法だった。
 以来、彼はそれを自分のスタイルとしている。

 かつて、自分は罪を犯した。そしてそれは大きな「力」の庇護の元、表面的には不問に付されている。
 だが、彼自身の中からその罪が消えることはない。
 ならば。
 これからの人生でそれを償えるだけの人間になろう。
 過ぎ去ったことを変えることはできない。人間にできるのは、常に「今」と「未来」に働きかけることだけだ。零司はその信念のもと、生きている。それが天宮宗家への恩返しになるのではないだろうか、と零司は信じているのだ。
「時間てのは、残酷だな」
 かつて、自身の体に咒気を通す格闘はできなくなっていた。だが、最近では力の調整ができつつあることに、自分でも気がついている。
 いかに力を持とうと、心がしっかりしていなければ、何度でも同じ過ちを犯すだろう。
 そんなことを思っていると、子どもたちの声が聞こえ始めた。
「さて、と。帰るか」
 軽く体をほぐすと、零司は公園を後にした。


(弐之傳 遠い夏の日、悔恨は消えず・END)


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