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作品名:「SagaU 神氣学園閑居傳」 作者:ジン 竜珠

第21回 弐之傳 遠い夏の日、悔恨は消えず・参
「はい、そこまで!」
 道場に凛とした声が響く。師範代である咲菜の声だ。
「時間だね。今日はここまで!」
 そして全員集合し、礼。解散の途中で、
「響堂くん」
 と、咲菜に呼び止められた。
「どうしたの、今日は? 型も技も、まったくなってなかったわよ?」
 少し困惑気味に言う咲菜に、零司はただ一言。
「……こんな日もあります」
 とだけ答え、更衣室へ向かおうと背を向けた時、咲菜の手が、ぽん、と頭に置かれるのがわかった。
「なんかあったら、言いなさいよ。特に君の家は、その……。まあ、解決まではできなくても、話すだけでも気分が楽になるから」
 とりあえず頷くだけして、零司は歩き出した。耳まで熱くなるのを感じながら。

 奥平の方につき合ってるオトコがいるんだ。

 放課後に言われた純弥の言葉が、心に楔(くさび)となって打ち込まれている。
 それは考えないことではなかった。あれほど素敵な女性だ、つき合っている男性がいてもおかしくない。
 でも、こんな小さな村だ、そんな噂があれば、すぐに広まっているはず。それにわざわざ「オトコ」のために、こんな村にとどまるなんて先生「らしくない」とも思った。
 道場から帰る道、「どうせ亜久谷の言うことだ、信じることはない」と、呪文のように呟いていた。

 翌朝の修練では父が溜息混じりに言った。
「心に迷いがあるな。これでは鎮魂行もままならぬだろう。ランニングでもして、頭を冷やしてこい」
 天宮流に伝わるという古流拳法の組み手で、何度も技をくらい、痛む全身を精神力で支えながら、零司は頷くしかなかった。
 早朝五時。こんな時間にランニングをしているのは、この村ではきっと零司だけだろう。やはり、前日、純弥から言われたことが響いているのだ。否定する自分と、認めている自分。そのせめぎ合いの中、感情の奔流がコントロールできない自分を、ぼんやりと零司は自覚していた。
「……こんなんじゃ、駄目だよなあ」
 ふと足を止め、東の空を見る。冴え冴えとした空気の中、朝の光がかすかに漏れ出してきていた。

「こ、これは……」
 放課後、再び、純弥に屋上に呼び出された零司は、数葉の写真を見せられた。
「昨日言ってた、先生とカレシのデート現場さ」
 得意げに純弥は言ってみせる。
「ここじゃなくて隣街でのモンだがな。しっかし、この暑いのに二人とも、くっつきすぎじゃね?」
 そう言って、純弥はくぐもった笑い声を漏らす。
「奥平に芯野(しんの)って家があってさ、そこの息子らしいぜ。隣街でリーマンやってるって話だ」
 まだ何か純弥は言っていたが、零司の耳には届かなかった。
 否定していたことが事実として、今、突きつけられているのだ。
「なあ、聞いてんのか、響堂?」
「え? な、何だって?」
 頭をボリボリと掻き、やれやれといった感じで純弥が言った。
「だからさ、お前も一口かめよ」
「……何のだよ?」
「やっぱ、聞いてなかったか」
 そう言って純弥は邪悪な(としか表現できない)笑みで、零司の耳元に囁いた。
「俺たちでヤっちまうんだよ、咲菜先生を、さ」
 瞬間、氷が背筋を駆け上った。


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