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作品名:「SagaU 神氣学園閑居傳」 作者:ジン 竜珠

第20回 弐之傳 遠い夏の日、悔恨は消えず・弐
 この村には、一つの拳法道場がある。名を「古心(こしん)流」といい、もともとは名のある流派から派生した亜流武術だったらしい。
 身体錬磨によい、ということで、中学に上がると同時に入門させられた零司は、メキメキと上達し、中二になった頃には師範代と組み手をするまでになっていた。
「君は本当にすごいなあ」
 師範代の北小路 咲菜(きたこうじ さきな)は、いつも笑顔でそう言ってくれた。
「い、いえ、そんなこと、ない、です……」
 素(す)で彼女と向き合うと、常に頬が熱くなるのを感じながら、うまく言葉を紡ぎ出せない自分を、零司はもどかしく思っていた。
 咲菜は確か十九歳だった。大学進学の予定だったが、「自分が他所へ行ってしまうと家を継ぐ者がいなくなるから」と村に残り、道場を継ぐことにしたのだそうだ。いわゆる「綺麗なお姉さん」で、憧れていたのは零司だけではないだろう。

「よう、ちょっといいかい、天才さん」
 ある日、学校から帰る時、同じ道場に通う亜久谷 純弥(あくたに じゅんや)から声をかけられた。同じ学年、同じクラス、しかも入門も同じ頃だったが、実力は零司の方がはるか先を行っていた。
 そんなところから、純弥が零司のことをよく思っていないのは、他ならぬ零司自身が充分承知していたが、あからさまに無視するのもどうかと思ったので、とりあえず「何か?」と応じることにした。
「いい話があるんだ。屋上まで来いよ」
 ニヤニヤしながら、純弥は顎をしゃくった。

「何だよ、いい話って?」
 一刻も早くこの時間を終わらせたくて、やや早口気味に言ってみた。
「お前、咲菜先生のこと、好きだろ?」
「なっ……!?」
 一気に頬が熱くなった。
 それがおかしかったのか、くぐもった笑い声を立てて純弥は言った。
「道場でのお前を見てたら、誰にだってわかるぜ。それより、咲菜先生な、面白ぇ話が、あンだ」
 そして、焦らすつもりなのか、うろうろと歩き回ってみせる。
「……何だよ、面白い話ってのは?」
 先に折れたのは零司の方だった。それがまた愉快だったのか、今度は声を立てて笑うと、純弥は言った。
「先生な、家を継ぐためにこの村に残った、みたいなこと言ってっだろ? あれな、真っ赤な嘘だぜ?」
「それが、どうかしたのかよ?」
「家を継ぐためじゃない。じゃあ、どうしてこんな辺鄙(へんぴ)な村にいるんだと思う?」
「だから、それを聞いてるんじゃないか」
 零司の心の揺れを愉しむかのようにニヤつくと、純弥は零司に近づき、囁くように言った。
「オトコだよ」
「…………ッ!?」
「奥平(おくひら)の方につき合ってるオトコがいるんだ。デートしてるのも見たし。おっと、俺一人じゃないぜ、先生がデートしてるところ見たの」
 頭の中が真っ白になった。
「お前の憧れの師範代は、他のオトコのオンナ、なのさ」
 そう言って、純弥は去って行った。
 あとに残された零司の心の中には、どす黒い嵐が渦巻いていた……。


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