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作品名:「SagaU 神氣学園閑居傳」 作者:ジン 竜珠

第19回 弐之傳 遠い夏の日、悔恨は消えず・壱
 早朝、零司は近所の公園で軽い練気行を行っていた。
 夏休みに入ったこともあり、朝六時半頃には近所の子どもたちがラジオ体操をやりに集まる。だから、自然とそれまでの時間を利用することにならざるを得ない。
 まあ、それ以前からもここは近所の人が飼っている犬の散歩コースになっているらしく、結構早い時間から人影を見る。だから、ここでやる練気行は、自然と簡易なモノにならざるを得ない。
 無論、太極拳だの気功だのが世間的には定着しているから、奇異な目で見られる事はないだろうが、「視る」人が「視れば」、零司の発する「気」が尋常なものでないことがわかってしまうだろう。そういうところから注目されるのは、零司の本意ではない。
 時刻は午前六時。全身を巡らせた「気」を、右の拳経由で地に放つ。威力を絞っていたこともあり、軽い風が起こって地に浅いすり鉢状のくぼみができるにとどまった。
「こんなところかな?」
 呟き、零司は軽く関節をほぐすように肩を回す。そして、改めて拳を見た。
「……あれから四年か……」
 ふと、過去の出来事を思い出す。あの出来事がきっかけとなって、自分は今のスタイルになったといっても過言ではない。
 そう、器具を使って咒を放つというスタイルになった、癒えぬ傷。響堂 零司、十四歳の夏……。


 自分が本当の子どもでないことは、小学生の時に聞かされた。なんでも「天宮流神仙道」とかいう呪術の道を継がせるのに、響堂の実子にはその「適性」がなかったということで、零司が家の跡目を継ぐことになったのだ。その時、自分が養子であることを知らされた。父が、母が、そして妹が血の繋がらぬ他人であるという事実を受け止めるのに、当時の彼は幼くてよく理解できていなかったと思う。ただ、妹が生まれてからなんとなく疎外感を感じていたのは、そのせいだったのかと、漠とではあったが納得したように記憶している。
 以来、彼は父の指導の下、天宮流の修行に邁進(まいしん)する、いや、「させられる」ことになった。
「やーい、もらわれっ子」
 小さな村だったこともあり、零司が本当の子どもでないことはあっという間に学校で知らぬ者がないほどになった。
 人口二千人ほどの小さな山村が、零司の生まれ育った故郷だ。
 今から思えば、どうして自分が養子だということが周囲に知れたのか、疑問に思わなくもない。当時は妹が意味もわからず口にしてしまったからだと思い、彼女に辛く当たったこともあったが、妹が事実を知ったのは、もっとあとになってからだと、後に知った。
 ではなぜ知られたのか。おぼろげにも両親ではなかったか、と思うこともあった。神仙道に限らず、何かを極めるには強く、しなやかな精神力を必要とする。それを養わせるために、わざと知られるようにしたのではないか。そう思う日もあったし、今ではそう思っている。
 そして修行を始めて数年、彼が十四歳になった初夏のことだった…………。


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