珠璃が空を見上げて言う。 「多分、ボクたちもキミたちも、とんでもなく巨大な『何か』に立ち向かうことになるんだと思う。そんな中で、どれだけのものが護れるのかわからないけど」 そして、俺を見る。晴れやかな笑顔で。 「お互い、頑張ろう!」 「ああ!」 俺も笑顔を返す。そして、どちらからともなく手を差し出し、かたく握手した。 「珠璃、明日は早いわよ。八時には空港に着いてないと、フライトに間に合わないわ」 「そうだね、お姉。じゃあ、竜輝、名残は尽きないけど」 そう言って、何を考えたか珠璃は俺に抱きついてきた。 「お、おい!?」 突然のことに、慌てた俺は、バランスを崩して、尻餅をついてしまった……。
んで、目が覚めた、と。 なんか、よくわかんねえ夢だったな。内容はほとんど覚えてないのに、奇妙だったっていうところだけは、ハッキリ覚えてる。なんか、「夢」について誰かに対して、文字通り夢の中のような要領を得ない説明をしていたような記憶もあるしな。 「ああ、そうか。ラウンジか」 次第に頭がハッキリしてきた。イザナミを退けた後、俺たちは始発の時間まで、ラウンジで仮眠を取ることにしたんだっけ。時間を見ようと身をひねった時、違和感を覚えた。何かと思って見ると。 珠璃が俺の胸に腕を回して、抱きついて眠っていた。 ……確か、仮眠室は男女で分かれていたはず。 「……あー、そういうヤツだよな、こいつ」 そういえば、小学生の頃、宗家に泊まりに来た時「お化けが怖い」とか言って、俺の布団に潜り込みに来たっけ。道士修業をする者が「お化けが怖い」もないもんだし、そもそもお化けじゃなくて、「護法」や「式神」の類(たぐい)だったんだが、小さいからそこまでは理解できなかったんだろうな。 「まったく、相変わらずなんだからな。まだ、お化けが怖いのか?」 と、俺は苦笑いを浮かべ……るわけねえだろうがっ! 俺は眠っている珠璃を引っぺがした。あぶねえあぶねえ。小さい頃ならいざ知らず、今のコイツが、そんなタマなわけねえからな。床に転がった珠璃は、もそりと起き上がる。そして寝ぼけ眼(まなこ)で俺を見た。次に自分の服、さらに服の内側を覗き込む。 再び、俺を見て、珠璃は言った。 「チッ。こういう状況なら竜輝と既成事実が作れると思ったのに」 ああ!? 今、「既成事実」とかって言ったか、コイツ!? 俺は、ほかの二人(零司さんと鷹尋だ)を起こさないように珠璃ににじり寄る。 「お前、何考えてんだ?」 「決まってるじゃないか、竜輝をはじめとする美形でかためた、ボクだけのハーレム建設さ」 寝ぼけ眼のまま、あさっての方を見て、緩んだ笑顔でそんなことをほざきなさる鬼城家の一人娘。ご両親は、とうに鬼籍に入っておられる。こんな育ち方をしてしまって、ご両親もさぞや無念であろう。その時、ケータイのアラームらしきメロディが鳴った。確か零司さんが仮眠を取る前に仕掛けてたな。 「まずい! とにかくここから……!」 「慌てることないよ、竜輝」 と、零司さんが起き上がった。ついでに鷹尋も。 「夫婦ゲンカの邪魔はしないさ」 と言いながら、零司さんは立ちあがる。 「えっと、僕たち、下にいるね」 と、鷹尋も立ち上がる。 「待て待て待て待て! 二人とも、壮大な勘違いをしています。多分、さっきの戦いの疲れがまだとれてないんだ! だから、もう一度、寝直しましょう!」 その言葉にいち早く反応したのが珠璃。ていうか、俺の布団に転がって、もう、すぴょすぴょ寝息を立てている。 まあ、たいへんな戦いだったからな。俺たち三人は顔を見合わせ、お互い肩をすくめた。
その後、例によって杏さんにいじられたことは、……言うまでもないか。
〈神氣学園夢遊譚・了〉
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