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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第93回 陸之傳 冥陣(みょうじん)・拾陸
 とりあえず、不安要素は潰しとかないとな。
 というわけで、俺は火曜の深夜、旧名仁学園跡に来ていた。正確には、「立ち入り禁止」の鎖が渡してある、旧名仁学園正門の門柱近くに置かれたベンチに座っていた。このベンチはもともと名仁学園の中庭にあったものらしい、ってのはどうでもいいか。ついでにいうと、この鎖の先には高さ三メートル近い塀があって、旧名仁学園をグラウンドごと、ぐるりと囲んでいる。その塀に出入り口となる扉が作ってあるのだが、施錠してあり、学生たちは中に入れないようになっているのだ。
 ここについては、おそらく冥神の誰かが監視しているだろうとは思ったが、気になるものは気になるのだ。
「心配性かな、俺?」
 そんなことを呟くと、隣に座る珠璃が笑顔で言った。
「事が事だからね。用心しすぎるに越したことはないさ」
「何にも起きなければ、それでいいわけだしな」
 俺の前で缶コーヒー片手に立っている零司さんが言った。
「とにかく、警戒しておくのはいいと思うよ」
 ベンチの傍にある樹の切り株に腰掛け、鷹尋が言うと、新輝学園の方から、歩いてきた麻雅祢が事務的な口調で言った。
「新輝学園の方は異常なし」
 それに応えるように杏さんが言った。ちなみに杏さんは、門柱の上に腰掛けている。
「悪い予知は、外れるに越したことはありまへん」
 その意見には同意だ。
 俺たちがいるところは、そんなに明るくはない。でも、正門の門柱近くに設置されて、「立ち入り禁止」の表示を浮かび上がらせている門灯のおかげで、真っ暗でもない。だから、ある程度なら周囲の様子を知ることもできる。今のところ、不審な動きはない。
「麻雅祢、グラウンドのラインはどうなってた?」
 深夜だから、グラウンドは真っ暗だ。しかも今夜は曇ってて、星一つ見えない。確かに本校舎やシャングリラには外部照明の類はついているが、それはあくまで建物周辺の安全のためであって、グラウンドを照らすためのものではない。だが、白線なら、ある程度識別できる。俺たちはそれだけの修練は積んでいるのだ。それは主に相手の「オーラ」を見るための訓練過程で獲得する能力で……って、まあ、これは余談だ。
「乱れてた」
 俺の問いに、的確かつ簡潔に麻雅祢は答える。
「ということは、今日も候補日のひとつ……」
 言いかける俺を遮るように、珠璃が額に右の人差し指を当てて言った。
「竜輝の乱れ方とくらべて、どちらがすごかった?」
「竜輝には、誰もかなわないと思う」
「お前ら、何を話してやがるんだ? ていうか、麻雅祢も無表情でとんでもない冗談ぶちかますんじゃねえ」
「見てみたいわあ、竜輝はんの乱れるとこ」
「いや、杏さん、こいつらの戯れ言につき合わないでください」
 零司さんは笑いを堪え、鷹尋は今一つ意味がわからないのか、首を傾げている。
 ここだけ見ると、平和そのものだ。よくある学園風景。深夜じゃなければ、クラスのどこでだって展開しているシチュエーション。
 ……だが、残念ながら、これは過去形になってしまった。
「!? これは!?」
 突如、喩えようのない、イヤな気が渦巻いた。その中心にあるのは旧名仁学園北校舎。
 俺たちの間に緊張が走る。そして次の瞬間には、俺たちは塀を跳び越え、北校舎へと向かっていた。

「ダメだ! 開かない!」
 確か、一階倉庫の裏手にある窓はクレセント錠の部分がイカレていて、鍵が閉まらないって凉さんに聞いたことがあるんだが、今はきっちりかかっているらしく、ビクともしない。これは「修繕したか」と思っていたが、鷹尋や零司さんの言葉で呪力の関与を疑った。
「中の様子がまったく見えないよ、竜輝!」
「どの窓も全部そうだ。物理的な障壁じゃなく、呪術で『隠されている』状態だな」
 いったん中庭に集まった俺たちは、もう一度、北校舎を見る。
「変だよね」
 と、珠璃が言った。
「ああ。でも、多分俺と珠璃が感じている『変』は、多分、一部、違うと思う」
 俺は一瞬、迷った。ここにいるメンバーに「冥神」のことを話すべきか? だが、逡巡の時間はそう長くはなかった。緊急事態かも知れないのだ。
「詳しいことは俺にもよくわからないが、天宮の中には『ここ』を監視するための特殊部隊が組織されてる。名前は冥神。珠璃は一度、会ったことがあるはずだ」
 俺の言葉に、珠璃が思い出したように「あの時の……」と呟く。
「彼らは、この場所の監視をしている。規模はわからねえが、最低でも一人は常駐しているはずなんだ。その一人がこの異変に気づかないはずがない。なのに、誰も駆けつけてこない」
「次はボクだね。中で何が起きているのか、それはわからない。多分、結界のような状態で『こちら』と『あちら』が仕切られてしまっているんだと思う。にも拘わらず、この異様な『氣』が溢れ出してくるのが感じられる。考えられることは二つ。一つは結界でも抑えきれないほど強大、そしてもう一つは……」
 そのあとを杏さんが続けた。
「ここの土地そのものから湧き出している……」
 この土地そのものから異様な氣が噴き出し、今はこの北校舎を取り巻いている。つまり、この学園の建っている土地は、異様な氣を孕んだヤバイ場所って事になる。もしそれが本当なら、なんでそんなところに教育施設が建っているのか、正直、理解に苦しむぜ。だとすると、この氣の正体は何なんだ?
 もしかして、これが爺さんの言う「ご先祖の不始末」か?
「……まあ、そんなのは確かめりゃあすむことだよな」
 俺は氣を拳に集め、ダッシュした。そして一気に正拳を撃ち出し、窓を割ってその勢いのまま、校舎の中に飛び込んだ!



(陸之傳 冥陣(みょうじん)・END)


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