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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第90回 陸之傳 冥陣(みょうじん)・拾参
 深夜。旧名仁学園跡、北校舎の中で、蛍矢は蓮奈から聞いた話を思い出していた。

 さっきの話、私は砂堂の当主を見失ったと言った。だが、そうではない。教室に入ると、彼は私を待っていたのだ。そしてこう言った。
「これから、お前をここの『地下』へ案内しよう」
 その瞬間、周囲が結界で閉じられた。正直、マズイと思ったさ。向こうが何事か企んでいて一戦交えた時、実力は向こうの方が上だし、それに私も一応、女だからな、そのテの危機感は抱いたよ。結果としては杞憂だったがな。
 それで「地下」へと行くための咒を砂堂は発動させた。私たちがいた教室の床に、見たことのない図符が現れた。ある種の真形図(しんぎょうず)のようだった。いや、「陣」といった方がいいか? そして、その陣に導かれ、私たちは学園の「地下」へと行った。
 そこで私は驚くべきものを見た。どれほどの広さがあるかわからぬ、暗い空洞に立つ、巨大な金色(こんじき)の光柱(こうちゅう)だ。
「これが何かわかるか?」
 得意げな顔で砂堂は言った。
「これはな、『炉』なのだ。九転還丹を醸成するためのな!」
 俄には信じられなかった。だが、確かにその光柱には言いしれぬ神秘を感じたのも確かだ。
 しかし、私には気になっていることがあった。光柱の周囲に異様な気配があったんだ。それは「声」を出しているようだった。耳を澄ますと、それは死者の、いや、人でなくなろうとしている者、魔に堕ちようとしているモノの怨嗟の声、嘆きの声だった。思わず耳を塞ぐと、砂堂が私を見た。真剣な表情でな。私は何か言いたげなその表情を察し、耳を覆っていた手を離した。
「これこそが『天宮の罪』だ」
 砂堂は、どこか哀しそうに、そして静かに言った。
「金丹を醸成する炉ともなれば、周囲に漂う『純陽』の氣は計り知れない。まさに、ここに金丹があると宣言しているようなものだ。下手をすると、どこぞの道士に金丹を掠(かす)め取られるやも知れぬ。それを防ぐため、天宮の祖は極陰(ごくいん)の気をもって、周囲の陽の氣を中和することを考えたのだ。その極陰の気に選んだのは、嘆き悲しみ恨み……。およそ人が持つ『怨念』だ」
 私はあらためて周囲を視た。金色の御柱(みはしら)のまわりを、ぐるぐるとまわる負の思い。それらは成仏すらできず、ただただ「怨念」のスパイラルの中で昇華されることなく、慟哭し続け怨憎を増幅させている。
「純陽の氣と極陰の気が中和し合い、全体としての力場を調律しているが故、ここに金丹の炉があるとは、誰も思いもしないのだ」
「こ、この、恨みの念はいったい、どこから……」
 私はこう聞かずにいられなかった。砂堂は首を横に振る。
「わからぬ。あるいは世に溢れる未浄化の霊を集めてきたのかも知れぬし、あるいは安らかなる眠りを妨げてここに縛り付けたのやも知れぬ。それらを『咒』の力によりて『妖魅』に堕とし、極陰の気となさしめる。何にせよ、神仙道を歩むものとして、決して赦されぬ行為だ」
 そう言った後、砂堂は口元に不敵な笑みを浮かべて言ったのだ。
「だから、ここの金丹を私がいただいても、構わぬのだ」
「……?」
「言う意味が、わからぬか? 咎人のものを掠め取ろうと、責められるいわれなど、ないのだ!」
 そう言って、砂堂は調子の外れた笑い声を立てた。


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