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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第87回 陸之傳 冥陣(みょうじん)・拾
「姐御、言葉は選んだ方がいいですぜ?」
 蛍矢は思わず、そんなことを言った。
「いや、わかってる」
 と、蓮奈は弱々しい笑顔で答える。
「戦国の世ならいざ知らず、弟子を粛正するなど、あってはならない。ましてや冥神は特務部隊といっても暗殺組織なんかじゃない。だから私に、その任を与えられた真意が、実は未だにわからないんだが……。どうあれ、私がやったことは人として赦されることではないだろう」
 彼女なりに悩んでいるのだろう。そして、少しだけ俯いたものの、すぐに顔を上げ、蓮奈は話を続けた。
「三つ目だ。表向き、砂堂は謀反を画策したことになっている。だが、私はそうではないと感じている。その根拠は二つある。一つは砂堂が言った言葉『天宮の罪』だ。もしかすると彼は、かつて天宮の祖が犯した『罪』を暴こうとしていたのかも知れない。それが宗家の逆鱗に触れ、あんなことになったのかも知れない」
 天宮瑞海宗師は器の大きい人間だという。そんなことが果たして有り得るのか疑問だが、こと天宮流の暗部に関わることであれば「宗家」という、より大きな意志が優先するのかも知れない。
「そして二つ目だ。実は、あの数日後の夜、私はもう一度旧名仁学園跡に行った。そこで私は『あるもの』を見つけたんだ……」
 ここでいったん話を切り、蓮奈は溜息をつく。そして一同を見て、天井を仰ぎ、再び、一同を見渡して溜息をついた。それほどまでに告白することを逡巡させる内容に、自然と蛍矢、栂(つが)、穂津深は緊張する。
 ややおいて、蓮奈は話を再開した。
「すまない。どうしようか迷ったが、やはりお前たちには話しておく。理由はわからないが、名仁学園跡の力場が、妙に歪んでいた。だからこそ私は中に入ったんだ。そして私は聞いた。天宮に対する、怨嗟(えんさ)の声を、紛れもなくかつて人間だったであろう死者たちの、嘆きの声を……!」
 そして自分で自分の体を抱くように、身を縮こまらせる。
「お前たちもそうだろうが、私も死者の声を聞くことはよくある。嘆きの声、恨みの声。尋常な精神では耐えられないほどの、な。だが、それでもあの声は別だ。あれは、すでに人でなくなってしまった者の声だ。人でなくなり、魔に列せられようとしている者の最後の声。……ああ、そんな喩えでも足りない」
 言いながら、蓮奈は首を振る。そして、決意したように言った。
「あの建物に、ある図符が現れていた。その図符は今まで見たことのないものだったが、感覚的にわかった。あれは妖魔の類(たぐい)を封じるものだ。天宮は、何らかの理由で死者たちを妖魔として封印しているんだ。あるいは、もっとおぞましいこと……その封印のために死者は妖魔に『堕ちて』いるのかも知れない……!」

 建物を出ると、蛍矢たちはそれぞれの帰路についた。ここは北斗の北西にある山中だ。もう少し降ると、林の中の舗装された車道に出る。
 蓮奈は「あれこそが『天宮の罪』かも知れない。だとすると、秘密を知ってしまった砂堂を、理由をつけて処刑したということも考えられる」と言ったが、やはり簡単には信じられない。
「あの、いいですか?」
 と、別れ際に穂津深が聞いてきた。
「なんだ?」
 と、蛍矢が穂津深を見る。
「ちょっと気になってて。あの人、蓮奈さんに関する噂、って、本当なんですか?」
「ああ、あれか。……半分本当、ってところだな」
「じゃあ、やっぱり……」
「あの人は、『緋勇牙』っていう霊獣を従えてる。だが、ある時、制御に失敗してな、体の中を霊獣に喰われちまった。今、あの人はその霊獣に喰われた中身の肩代わりをさせて、やっと生きていられる状態だ」
 と、哀しげな表情を浮かべる。しかし、すぐに強い意志を瞳に宿して言った。
「だが、半分は誹謗中傷だ! 姐御はそんな人じゃねえ」
 その声には、忠実な部下という以上の感情が含まれているようで、穂津深は思わず頭を下げた。
「すみません、気になったので!」
「あ、いや、すまん。お前を責めてるわけじゃない。……今、姐御があの家に半ば閉じ込められているのは、宗家に楯突いて軟禁状態にされているわけじゃない。ほかの連中が、悪意を持って垂れ流している噂は、根も葉もないことだ。霊獣に体の肩代わりをさせているといっても、完璧じゃない。だから、あの家に特別な呪符や図符を敷いて、姐御のサポートをしているんだ。そうしないと、姐御は……」
 その先は聞く必要がなかった。一礼して、穂津深は帰路についた。


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