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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第82回 陸之傳 冥陣(みょうじん)・伍
 六月十六日、土曜日。午後四時三十五分。
 よく晴れた夕刻、凉は、資料にあった隣街のマンションまで来ていた。マンションの名は「コーシマぷれしゃす」。十四階建てのマンションで、中心街区からは少し離れた郊外だが、それなりにアクセスは充実しているし、自然にも囲まれている。そのためか、かなり人気の高い物件で真偽のほどは定かでないものの、このマンションの分譲が開始された七年前には、オークションまで開かれたという。
 正直なところ、オークションというのは眉唾だが、確かにここなら人気が高いだろうという、立地条件には違いはない。
「できるもんなら、あたしもこういうところに住みたかったよなあ」
 頭をガシガシ掻きながら、住宅地から離れた広い敷地の中に、一棟だけ、林立する木々を背負い、まるで宮殿のように建っているコーシマぷれしゃすを見上げた。凉とて、一高校教師ということから考えたら、およそ似つかわしくないマンションに住んではいる。しかし、それと比べることさえ、おこがましいと思えるほど外観からして異なっていた。例えるなら、凉の住んでいるマンションは、本当に「いかにも」なマンションだ。だが、目の前のこのマンションは煉瓦風の外観に始まり、地下駐車場へ続く道路に沿って敷設された遊歩道は、それ自体が散歩コースと言ってもよいほどの景観を誇っている。いかなる意図を持っているのか今一つ不明だが、敷地内の駐車場から幹線道路へと出るための道は一度、マンションの周囲を一周してから幹線道路へとアクセスするようになっている。
「ああ、なるほど、直(ちょく)で車道にアクセスすると、出勤時間なんかに駐車場内が混雑するのかな?」
 ぐるりと周囲を回りながら、凉は呟く。そして、持参した資料を広げた。
「志賀修一専務がこのマンションの最上階のワンフロアをすべて購入したのが、三年前、か。数字的には一応辻褄は合うな。前の所有者は、それぞれの事情で売却した、わけね」
 最上階には、四部屋あるが、そのすべてがほぼ同じ時期に部屋を売却している。普通に考えて、そういうことはあまりないのではないか。つまり、なんらかの『力』が働いたと考えるのが、妥当だろう。
「さて、と。それじゃあ中をチェック……」
 と、二十メートルほど先の、入り口付近を見た時だった。
 一人の若い女が出てきた。ごく普通のスーツ姿だが、どこか違和感がある。凉は呼吸を整え、霊眼で女を見た。その「眼」に映じたのは、女の周囲を躍る呪字の数々。
「……こいつか……!」
 資料にあったのは、五年前の砂堂麗亜の写真。だが、目の前の女にも、その面影がある。
 まずは尾行してその素性の確認を、と思った時だった。女が立ち止まったのだ。そして一瞬振り向いてこちらを見たかと思うと、突然、霞みに包まれたように、見えなくなってしまったのだ。

 あの女が何者かはわからない。今、ミハシラ内部は次期社長候補を巡っていろいろとあるようだから、どこかでアレックスがヘマをやらかして、その身辺が探りを入れられているのかも知れない。そしてその時、自分のことを見られたかも知れない。自分のことは第三者に知られないよう、二重三重に術を張り巡らしてはいるが、それとて完璧ではない。透明人間などでない以上、目視されれば、認識される。こちらがそれに気づけば相手の記憶に干渉してその認識を改ざんできるが、いつも確実に気づけるとは限らない。だから、ひょっとすると今の女は、何者かが雇った私立探偵かも知れない。
 麗亜は呪力を発動させて、相手の認識をねじ曲げた。一種の催眠術のようなものだ。おそらく女には、麗亜が消えたように見えたか、何かの物陰に隠れたように見えるはずだ。
 周囲をきょろきょろ見回しているところからして、どうやら、あの女には麗亜が消え失せたように見えたようだ。
「フン」と鼻で嗤うと、麗亜はそのまま、歩き去った。

 麗亜が駐車場に向かった時、凉は首の関節をほぐすように回した。
「……ビンゴ、か。にしても、妙な『力』使いやがんな。まだ眩暈がしやがる」
 天宮流にも、似たような呪術はある。しかし、麗亜が今使ったのは、かなり個人的な「クセ」がついたもの、早い話が我流になっていた。相手の呪術を無効化できたのは、ひとえに凉の実力と技量が麗亜を上回っていたからである。
 麗亜の車(シルバーのスポーツタイプだった)を確認し、凉はその場を後にした。


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