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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第79回 陸之傳 冥陣(みょうじん)・弐
 宗師は何事か武人に話しかけている。その表情は憐憫の情に満ち、双眸には涙さえ光っているようだ。生憎、蝶には「耳」はない。麗亜の技術では、まだ耳目をともに意識に乗せることができないのだ。だが、宗師の「思い」だけは伝わってきた。

 すまぬ。儂とて辛い。だが、もはや、お前を救う術(すべ)はない。あるのは、ただ一つ。「人」であるうちに、その生の幕を下ろしてやることだけ。今さらお前の罪を問うつもりはない。せめて、神罰の及ばぬよう、ここで業(ごう)を落としてやる。

 そんな思いが伝わったか、武人は静かに膝を突き、正座になる。そして、宗師が何かの呪文を唱える。
 一呼吸ののち。
 音のないはずの世界で、麗亜は確かに宗師の声を聞いた。裂帛(れっぱく)の気合い、そしてその奥に隠れた慟哭を。
 刀印に結んだ宗師の右指から、太陽光と見紛う光球が放たれる。その光球は、まっすぐに、そしておそらくは一瞬の間だったのだろう、宙を駆け、武人を撃った。燃える光に包まれながら、武人が……父が安らかな表情を浮かべていた。それとは対照的に、宗師の表情は、峻厳な中に深い哀しみを滲ませていた。
 やがて、光球の余波を受け、蝶が消えていく。霊眼から現実の目に移る中、父の姿はもはや影となっていた。咄嗟によろめいたその体を支えたつもりだったが、麗亜が掴めたのは父が着けていた装束だけであった……。

 目尻を濡らすのは涙か。
 久しぶりに「あの時」の夢を見たようだ。どうやら、アレックスの研究がある程度進展していることが関係しているのだろう。
 枕元の時計を見る。午前三時。いつもより、一時間ほど早い。しかしもう一度寝直す気にもなれず、麗亜はベッドから起き上がる。どうも、寝汗をかいていたらしい。ベッドから出ると、下着だけの体にナイトガウンを羽織る。
 ここは隣街にある十四階建ての高級マンションだ。その最上階にある五部屋すべてを、麗亜は買い取っている。その資金源は彼女自身の持つ呪術の霊果によるものだ。
 シャワーでも浴びよう。そう思い、ふと、ナイトテーブルを見る。父が残した例の結晶を入れたジュエリーボックスがある。
 あの時、父はあれを「金丹」だと言った。だが、あれから麗亜が父や祖父の残した資料などを調べて結論づけたのは、そうではなかった。
「これは、金丹なんかじゃない。これは……。これは、カケラなのよ」
 思わず、口元が歪む。
「そう、これは、『神のカケラ』……!」
 口元の歪みは、どうやら笑みであるらしかった。低く、くぐもった声を立てて、麗亜は笑う。
「これを我が身に取り込めれば、それはまさに神を喰らったも同じ! 『仙果を得(う)る』など、児戯も同然!」
 笑いはいつしか、高笑いとなっていた。


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