小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第78回 陸之傳 冥陣(みょうじん)・壱
 その夜、突然、道場の扉が開かれた。よろけながら入ってきた、その姿は、紛う事なき父。
「お父さん!」
 駆け寄ると、父は片手を伸ばした。近寄るな、とのジェスチャーだ。だが、そんなことを素直にきく子など、あまりいないであろう。そして、父の体を支えようとした時。
「……まさか……」
 父の体はまるで真綿のようで、不安定な存在だった。
「今は、『確率的』に『存在できている』に過ぎん。それより、お前に渡しておくモノがある」
 そう言って父は白練(しろねり)の袍(ほう)の前を裂き、そこから、透き通った琥珀色の何かを取り出した。正六角形のそれらは、一見、おはじきのようだが、どこか不思議な「氣」をにじみ出させている。
 全部で五枚。皆、五百円玉ほどの大きさで、あるいは琥珀でできたコインのようでもあった。
「これが、これこそが……」
 何か言いかけて、父が膝をつく。慌てて手を添えたが、その時にはその実体はかなり希薄になっていた。
「待ってて、お父さん! 今、氣を集めて……!」
「無駄だ……。もう、私は助からぬ。身から出たサビとはいえ、天宮宗家が、ひた隠しにしてきた禁忌に触れてしまったのだ。まさか、あのようなことが……」
 まだ何か言っていたが、声が小さくなり聞き取れない。しかし、それでも伝えねばならないことがあるのだろう、父は喉を絞るようにして言った。
「麗亜、よく聞きなさい。お前はコレを最大限に活用するのだ。そして天宮を凌駕するもよし、自らを頂点へと押し上げるもよし。そう、コレこそは、コレこそが、数多の道士が夢見た、九転還丹(きゅうてんげんたん)、金丹なのだ……」
 麗亜は術を使い、自らの目である「蝶」の形をした気の塊をいくつも放つ。父を構成する要素が、理由は不明だが、今、分離しているのだ。それらを集め、父の存在を確固たるものにしなければならない。
 父の氣を追っていた蝶はやがて、ある山中の拓けた場所に来た。そこにいるのは一組の男女。一人は見たことがあるので、知っている。宗師の孫娘、胡桃だ。もう一人はまだ少年だ。どことなく宗師の息子・輝鵬(きほう)の面影があるから、これが噂に聞く宗家の「最終兵器」だという孫かも知れない。そして二人の前に一体の巨人が立っていた。その巨人は頭部にいびつに歪んだ二本の角を生やし、口角は耳まで裂け、そこから生えた乱ぐい歯が、まるで蛆のように蠢いていた。全身は赤黒く見えるが、これは月明かりのもとゆえかもしれない。
 まさに、鬼。身長二十メートルはあろうかというこの鬼は、しかし、伝説にいう鬼とは少し異なる存在であった。
「……そんな、お父さん、どうして……」
 麗亜の瞳から、涙が一筋流れる。そう、この鬼は父の荒魂(あらみたま)が歪み、穢れ、堕ちたモノなのだ。鬼に向かい、天宮姉弟が何かの印咒を放つ。それは麗亜が伝授されていないものであったが、その威力は充分に予想できた。あれは、「祓う」という生やさしいものではない。
 滅する。
 それのみを目的とした呪力のカタチであった。
「やめてぇぇぇぇぇぇぇ!」
 麗亜は叫んだ。されど声は届かず。蝶は、ただ空を舞い、見るだけ。
 咒(しゅ)を受け、鬼が崩れていく。それを、蝶はただ見ているだけだった。
 また、別の蝶が父を見つけた。どこかの学校のような建物だ。その横を、白く揺らめくカーテンが舞っている。あれは父の幽体であろうか。もはや人の形を保てないほど、その氣が弱々しい。そしてそれを、屋上から睥睨(へいげい)する一人の若い女。赤茶色の髪をショートカットにして、男物のスーツに身を包んだその女は、麗亜の記憶にない人物だが、天宮の手のものに違いないだろう。女は、左手にはめていた手袋を外す。その甲には、何らかの咒字が刻み込んである。そして女が何かの呪文を唱えると、その咒字が浮き上がり、虎に似た霊獣が現れた。霊獣はカーテンに躍りかかり、喰らっていく。
「……やめて、もう、やめて……。お願いだから……」
 手で顔を覆っても、霊眼に直接映じる景色。涙で霞むのは、肉体の目で見る景色のみで、蝶の目は霞みもかすれもなく、くっきりと有様を見せつける。
 また、別の蝶が父を見つけた。今度もどこかの学校らしきところだが、先のところよりもはるかに規模は大きい。建物が何棟も建っている。そのグラウンドに立つ人と変わらぬサイズの武人は、父の奇魂(くしみたま)か。……いや、やはり堕ちた姿だ。そしてその武人に相対するのは、天宮 瑞海(あまみや ずいかい)、天宮流神仙道宗師であった。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 127