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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第77回 伍之傳 愛情は、知識とセンスを凌駕するか?・漆
 いや、驚いた。
「珠璃、お前、手際いいな」
「そりゃあ、こっちへ来てからずっと自炊だからね。時間が空いた時はお菓子作りにも挑戦してるし。夏休みなんかは、朝から料理とかスイーツとか作ったりする日もあったな」
 本当に流れるような手際だ。生地をオーブンに入れている間に、トッピングのクリームとか、ゼリーなんかに取りかかってる。ハッキリ言って、俺のすることがない。杏さんの方も、なかなか順調だ。正直、何をしているのか理解できないが、……なんで藁(わら)みたいなの(あとで聞いたら、イグサだそうだ)をバットに入れてんのか、わかんないんだが、杏さんのすることだから間違いはないだろう。
 問題はありすだ。やたらと大きいバッグに何を入れているのかと思ったら、ワインボトルが一本出てきたのだ。
「ありす、ちょっと聞いていいか? そのワイン……」
「隠し味に使うですよ」
「なんか、高そうに見えるんだが……」
「隣街のディスカウントで、叩き売りしてたです。1ダース418円。そんなにいらないので、バラ売りしてもらったです。1本35円」
「……。いや、それ、ディスカウントってレベルじゃねえだろ?」
「デフレで売り上げどん底だぜコンチクショー! って、お店の大将がボヤいていたですよ」
 いや、それはデフレでもないと思う。ていうか……。
「俺さ、ワインには詳しくないんだけど、そのラベル、『ロマネコンティ』って読めるような気が……」
「? あたしは、外国語とかは、さっぱりでよくわからないです。あ、でも、大将が『千九百七十六年の大当たりの逸品だ』って、だみ声でセールスしてました」
 ……。俺は一切のコメントは差し控えさせてもらう。なんか、いろいろコメント不能だ。
「あと、これで特製ハーブティーを作るですよ。麻雅祢たん、よろしくです」
 バッグから見たこともない葉っぱを二、三種類、一、二把ほど出して、麻雅祢に渡す。頷いて受け取ると、麻雅祢は水道でジャバジャバ洗い始めた。そして仕上げに、雑巾のように、ぎゅっと絞る。
「……」
 言うべきかどうかっていうより、言ってももう遅いっていうか、まさかこんな暴挙をやるとは思わねえっていうか。いや、でも、案外、一度絞るとかしないと、アクが強すぎたりして飲めないタイプのハーブかも知れない。
「ありす、あのハーブって、なんていうハーブだ?」
「ン〜。覚えてないです。てか、『ハーブティーに最適』っていうポップがあったんで、買ってきたですよ、同じディスカウントで!」
 一瞬にして、ものすごい不安が俺の胸をよぎる。
「大将が言ってたです、『ナントカって国の天然記念物で、今を逃すと入手不可能』だって」
「待て待て待て待て! 天然記念物って、まずいだろ、それ!?」
「へ? でも、大安売りでしたよ、一把二十三円」
 これはもう、今の物質的価値観がどうとか、物価のコントロールがこうとかっていう話じゃねえな。ていうか、そんなディスカウントショップが営業されてるって事の方が驚愕だ。大丈夫か、いろいろと?
 とか思ってると、ありすは生地の中にさっきのワインをドバドバドバドバと、惜しげもなく投入していた。
「……なあ、ありす。お前、『隠し味』って言葉の意味、知ってる?」
「レシピには書かれてない、隠してある材料、ですよね?」
 無邪気な、ホンットーに邪気のカケラもない笑顔で、ありすは答えた。
 その時、俺の肩を叩く手が一つ。振り返ると、珠璃だった。
「竜輝、料理の基本は『愛情』だよ」
 諦めきった笑顔っていうか悟りきった笑顔っていうか、そんな神の如き表情で珠璃は頷く。そういえば、随分前にスイーツ研でパウンドケーキをご馳走になって、先入観でてっきり、ありすもお菓子作りは得意なのかと思ってたが。今の俺や鷹尋みたいに、実際に作るわけじゃなく、手伝いだったていう可能性もあったんだよなあ。

 その後の展開は、推して知るべし。ただ、美悠那は、本当にいい奴だなあ、っていうのを俺たちは再確認したわけで。そのおかげで、珠璃が妙なテンションになりかけたんだが、なんとか百合百合な展開は俺と鷹尋で阻止した。
 まあ、少しでも元気を取り戻してもらえたら、それが一番だ。

 ちなみにワインのアルコール臭を飛ばすために、窓全開にして換気扇をフル稼働させて、芳香剤を買ってきて、と後始末が大騒ぎになってしまったのは、ご愛敬だ。



(伍之傳 愛情は、知識とセンスを凌駕するか?・END)


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