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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第73回 伍之傳 愛情は、知識とセンスを凌駕するか?・参
 午後四時三十分。待ち合わせ時間は午後四時四十五分だから、まだ、ちょっと早い。今、俺が来ているのは、市の西部・暮満にある和風喫茶店「梅花庵(めいかあん)」だ。この暮満というところは基本的に住宅地だ。だけど、古くからある商店とか駄菓子屋とか、そんなものが点在している。「昔懐かしい昭和の下町風景」とかなんとかいうキャッチフレーズがつけられた観光ポスターかなんかを見たことがあるが、実際、ここは人によっては癒しのスポットになってるようで、隠れた観光名所扱いされてもいるらしい。
「あら、竜輝はん、早いお着きどすなあ」
 先に店に入っておこうかどうか考えていると、背後から、そんな声がした。
「杏さん。杏さんこそ、早いお着きで」
 俺の言葉に、ちょっと微笑んでから、杏さんは答える。
「勘が働いたさかい、急いだのどす」
 ……そうだった。この人は珠璃に負けず劣らず勘が鋭い。珠璃のそれが、文字通り直観によるものなのに対し、杏さんの場合、予知能力と関連がある。彼女はその能力を利用して様々な占いを総合した未来予測をしているんだが、この的中率が実に洒落にならないレベルらしいのだ。なので、悪い未来ならいかにしてそれを避けるまたは被害を最小限に留めるか、いい結果ならいかにしてそれを確実なものにするか、それが重要になる。
 そう、杏さん曰く、「予知できる未来」というのは変更可能あるいは変わってしまう恐れのあるもので、本当に不可避であるなら、そもそも「予知できない」のだそうだ。それを彼女は「それこそが神さんのご配慮」だと断言する。
 生憎、俺は予知の才には恵まれてないので何とも言えないが、杏さんのこの考え方には大いに共感できる。
 それはさておき。
 俺たちは二人して梅花庵に入る。この店は和風喫茶と謳ってはいるが、一応コーヒーや洋菓子なども用意している。しかし、ここへ来て「紅茶とケーキのセット」なんてのを頼むのは野暮ってものだ。とはいえ、ここへ入るのは俺も初めてだ。なので、馴染みらしい杏さんに聞いてみる。
「オススメとか、どんなのがありますか?」
「そうですなあ」
 と、杏さんは「お品書き」と開かれた扇子を広げる。
「この間の再会記念では、そこそこ甘いモン召し上がってはったけど、竜輝はんは、甘いモンはどのくらい、いけるクチですやろか?」
「甘さの限界に挑戦したことないんで、よくわかんないんですが、まあ、標準的なレベルじゃないかと」
「せやったら、『梅昆布茶』と『栗ようかん』から、始めるのが無難ですやろなあ。それとも『田舎汁粉』がええかな? 予算に余裕があるんやったら濃いめの『緑茶』と『桜もなか』もええなあ……」
「『梅昆布茶』と『栗ようかん』で!」
 緩んだ笑顔でお品書きを見る杏さんの話が、なんだか違う方向に行きそうになったので、俺は注文を給仕さん(ウエイトレスさんやウェイターさんをここでは、こう呼ぶらしい)に速攻で頼んだ。

「この間の話、その続きですねんけどな」
 頼んだものを口に運びながら、杏さんは言った。幾分、音量を下げた声で。ちなみに杏さんが頼んだのは「玉露茶」と、ここの特製だという「桜もなか」。この「桜もなか」は四月半ばから六月半ばまでの限定品、しかも一日の個数も限定という商品で、もなかの皮の下に桜餅、その中の餡に塩漬けにした桜の蕾や花びらが入っているのだそうだ。
 杏さんから渡された二つ折りのメモを開く。
「……予知ですか?」
 俺の問いに、杏さんは頷く。そこに書かれてあったのは、こんな言葉。
「旧名仁学園跡、夜、争乱の芽。日時はわからず。ただし、球技大会よりあと、文月には入らず。蝶、舞う」
 新輝学園の球技大会は、確か六月下旬、二十日から二十二日にかけてあたりだったと思う。そのあと、文月すなわち七月になるより前に、旧名仁学園跡で何かが起きるってことか。
「『球技大会』云々のあたりは、少し自信がありまへん。ウチに『視えた』感じから、グラウンドに真新しいラインが引かれてあったように感じました。あれは、多分、球技大会のために『引かれた』のやと思います。そして、それが乱れていたようでしたから、球技大会より後、と思たのどす」
 七月より前というのは、そのラインがまだ、残っていたからだ。大会が終わって一週間どころか三、四日もすれば、大会のために引かれたラインは、ほとんど消えてしまうらしい。
「『争乱の芽』って?」
 杏さんは首を横に振る。
「わかりまへん。『乱気』のみが『視えた』さかい」
 俺はメモを見ながら考えた。一体、何を意味するのか。しかし、考えたからと言ってわかるようなもんじゃないからなあ。


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