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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第70回 肆之傳 そして蝶は舞う・拾弐
 暮満にある洋館には、明かりがついていた。といっても、一部屋だけ。
 時刻はもう日が変わっていた。
 唯一明かりがついている応接間にいるのは、アレックスだ。彼はネクタイを外したシャツにスラックスという格好で、ソファに座り、黒い小さなケースを手にしている。そのケースは一見、眼鏡ケース風だ。だが、その装丁は豪奢で表面はシルク張り、ワンポイントで埋め込まれているのは二カラット程度だが、本物のダイヤモンドだ。アレックスはケースを開ける。中にあるのは半紙に包まれた、正六角形をした、一枚のコインのようなもの。大きさは五百円玉程度だろうか。透き通った琥珀色をしており、一瞬琥珀ではないかとも見えるが、それは琥珀ではなかった。
 静かにそのコイン状のモノを眺め、やおら、アレックスはそれを舌の上に置いた。嚥下するかのように、喉を鳴らす。
 目を閉じ、深呼吸を繰り返していたアレックスだったが、突然胸を押さえ、呻き始めた。それはやがて、喉を抉るかのようなうなり声に変わり、椅子から転げ落ちた頃には、苦悶の叫びに変わっていた。
 突然、部屋の扉が荒々しく開けられる。
「アレックス!!」
 一人の女性が部屋に飛び込んで、アレックスに駆け寄ってくる。彼は彼女を「麗亜」と呼びたいのだが、それどころではない。すでに目もかすみ始めている。
 麗亜は無造作にアレックスをうつぶせに転がすと、その背中に何かを描く仕種をした。専門的知識のないアレックスにも、呪符のような幾何学模様だというのがわかる。そして、麗亜はよく徹る声で呪文を唱えた。
「三尸之虫、悉入幽冥之中、去離汝身!」
 唱え終わると同時に、アレックスの背中を平手で一撃する。すると、それまでの苦しさが、一転、強烈な嘔吐感に変わり、アレックスは堪えきれず吐き出した。
 その吐瀉したものは胃の内容物ではなく、さっき舌の上に置いたコイン状のモノ、そして、まるで古代中国の官吏の如き姿をした、五センチほどの小人だった。小人はしばらく「キィキィ」と耳障りな声を上げていたが、ほんの三十秒ほどで、まるで風に吹き崩される砂の像のように消え去った。
 しばらく息を整え、アレックスは起き上がる。
「助かったよ、麗亜」
 麗亜は、ナイトガウン一枚を羽織っただけの姿だった。慌ててこの部屋まで来たことがうかがえる。
「まったく、何をしてるの、アナタって人は」
 ほっとしたのか、呆れたような声で麗亜は琥珀色のコイン状のモノを拾う。
「これは、物心ついた時から修業しているあたしでさえ、手に余るシロモノよ。あなたにどうにかできるわけないじゃない!」
「いやあ、これまでの試薬で耐性とかできているつもりだったんだけどね。所詮、これまで作ってきた試薬は、紛い物ってことだね」
 溜息をついて、麗亜はアレックスの髪を撫でる。
「いい、あなたはあたしの『駒』なんだから、勝手なことしないでちょうだい。いいわね?」
 言葉の内容とは裏腹に、どこか親しみが感じられて、アレックスは苦笑混じりに頷いた。



(肆之傳 そして蝶は舞う・END)


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