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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第69回 肆之傳 そして蝶は舞う・拾壱
 午後十一時十五分。凉が、風呂上がりのミネラルウォーターを取ろうと冷蔵庫を開けた時、携帯が鳴った。表示は天宮胡桃からの着信であることを告げている。
「もしもし、どした?」
『今、ちょっといいかな?』
「いいけど?」
 と、ボトルのキャップを開け、グラスに水を注ぐ。
『実は、杏ちゃんが家に来てね、さっき送ってきたところなの』
「へえ」
『五年前の『砂堂(さどう)』の修祓、凉ちゃんは何か聞いてる?』
「……ええっと、概要だけしか。あたしは関わってないし、詳しくは聞かされなかったからな」
『杏ちゃんがね、「砂堂の娘が今回の異変に関係あるかも知れない」って、言ってきたのよ』
「なんだ、それ?」
『今日、観たビデオに妖しく光る蝶が映ってたんでしょ? あの修祓の時も、空に舞っていたのが、妖しく光る蝶』
 今一つ話が飲み込めず、幾分、イラついて凉は言った。
「判じ物はいいからさ、ズバッと言ってくんないかな、ズバッと!」
『ああ、ごめん、あたしも、どう説明したらいいか、よくわかんなくて』
 電話の向こうで、胡桃も苦慮しているのがわかる。
「こっちこそ、悪い。別に胡桃を責めてる訳じゃなくてさ」
『うん、わかってる。そうだね、ちょっと長くなるけど、初めから話すね。その時の修祓、基本は宗師や師匠、そのほかの高弟の方たちが中心だったんだけど、あたしと竜輝、杏ちゃんも、補佐として関わってたの……』

『なるほど、そんなことがあったのか……』
 胡桃から話を聞いた凉の声は、簡単な感情では解きほぐせない複雑な響きを宿している。電話越しにも戸惑いが伝わってくるほどだ。それは加害者の持つ罪悪感、傍観者の持つ安易な同情心、そんなものでは到底説明できないものだろう。
「だから、杏ちゃんはその蝶を見て、直感的に思ったんじゃないかな、砂堂の復讐だって。でも、その後に言ったセリフがあの娘(こ)らしいけど」
『なんか言ったのか?』
「『復讐するのは勝手やけど、こちらも容赦致しまへんえ』って」
『……あいつらしいな』
 わずかながら、凉の声に穏やかさが戻る。
「でも、そうだとすると、ちょっとわからないんだけどな」
『何が?』
「仮に、天宮に対する復讐のために学園に近づいたんだとしても、天宮の関係者が学園に集まり始めたのはこの二、三年。それも異変が起こり始めてからの話。つまり、順序が逆なんじゃないかな?」
 自室でベッドに腰掛けた胡桃は、マドラーでグラスの中のグレープフルーツジュースをかき混ぜる。携帯は器用に頭と肩で挟んだままだ。
『異変を起こした張本人が、おびき寄せるために、ってことはないか?』
「さっきの話でその可能性も出たんだけど。もしそうなら、天宮と学園の、……正確にはその土地との深い関係を知ってるってことにならないかい?」
『……それって、もしかして!』
 と、凉が息を呑む。
「そう、天宮が『冥神』を結成してまで、あのエリアを監視している理由、それに関連して、五年前の事件が起きたのだとしたら……。そして、それが今に繋がっているとしたら……」
『結構、根の深い話になりそうだな』
「昔、あそこで何があったのか、わかればまだ、対処も違うんだけど」
『おいおい、そのためにお前の弟が送られてきたんじゃないのか? こちらも全力でサポートするからさ、とにかく、面倒ごとは、ちゃっちゃと終わらせよう』
 思わず笑みが漏れた。
『あれ? なんか、おかしいこと言ったかな、あたし?』
「ごめんごめん、そうじゃないの。さっきの話の結論も、そんなだったの。使えるものは何でも使って、とっとと解決させようって」
『……宗師の教えを受けた人間てのは、どうしてこんなんばっかりかねえ……』
 電話の向こうで、凉が深く溜息をついた。
「そうね」
 と、こみ上げる笑いを抑えもせず、胡桃は応えた。


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