「さて、今のを、どう見る?」 凉が杏と珠璃を見る。 「ボクは蝶には詳しくないし、ビデオも保存が悪くて映像が劣化しててわかりにくいんですが、多分、あんな蝶は日本にはいないような気がします」 「ウチも珠璃はんに同じです。羽根全体が角度によって七色に変って、うっすら光る蝶なんて、日本では聞いたことありまへん」 二人の返答に、凉が唸る。 「この蝶と、映研の部員全員がビデオを紛失したと思い込んでいること、そして、この間の零司や杏が出くわした影。これ、全部が繋がっているっていうのは、考え過ぎかな?」 「何とも、判断つきかねますね。ただ、その確率はかなり高いと思います」 珠璃がそう言う横で、杏は「あること」を思い出していた。だが、それをここで言うべきか。ここに送り込まれてきている天宮の関係者は、皆、直系かそれに近い流れの道士に直接師事する高弟ばかりだ。だから、信頼はおけるが。 しばしの逡巡ののち、杏は口を開いた。 「申し訳ありませんのですが、本日は『お華』の日ィですさかい、ここらでお暇(いとま)いたします」 結局、この場では言わずにおくことを選択し、杏は立ちあがる。 「何かわかったら、気兼ねのう、呼んでおくれやす。いつでも駆けつけますさかいに」 「ああ、そうだな。まだ、わからないことの方が多すぎる。なんかわかったら連絡する。習い事、頑張れよ」 と、凉は笑顔で送り出す。珠璃も、 「なんかわかったら、ボクの方にも連絡ください」 と、凉と杏に言った。
学校を出てバス停に向かう道すがら、杏は映像で見た蝶のことについて考えていた。 「ただの偶然、いうこともあるけど。それに一体何をしようとしているのか……」 そして、立ち止まり、ふと天を仰ぐ。 「いうなれば、『あれ』も『天宮の罪』。彼女には、復讐する権利があるのと違うやろか……」 一人で考えても始まらない。この記憶を共有する人物に相談するのが、いいかも知れない。 そして杏はスマホを取り出し、迷うことなく電話をかけた。 「……。あ、もしもし、竜輝はん? ちょっとお話ししたいことがあるのですが。……ええ、胡桃姐(ねえ)さんにも、聞いて欲しいのです。差し支えなかったら、今夜、九時半頃にお伺いしても構へんやろか?」 もしかすると、自分たちがこの学園に転校『させられた』理由、その根は、「あの事件」にあるのかも知れない。杏はそんなことを思うのだった。
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