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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第67回 肆之傳 そして蝶は舞う・玖
 生徒会室には、珠璃だけがいた。
「今日は特に活動することはありませんからね」
 そんなことを言いながらも、珠璃は何かの書類を作成しているようだ。
「夏休みが明けたらすぐに体育祭だから、その準備です」
「働き者だな、お前」
 と、凉が感心したように言った。
「ところで、今日は、お二人はどうなさったんですか?」
 それについては杏が、かいつまんで説明した。
「なるほど。ボクは当時、副会長だったけど、それにはタッチしてないですね。前の会長の円藤(えんどう)さんも、本当は夏休み中にアチラに行く予定だったのに、少しでも言葉や環境に慣れておきたいからって、急遽(きゅうきょ)、四月に予定を繰り上げたぐらいですから、引き継ぎも不十分ですし。そうですねえ、ちょっと待っててもらえますか?」
 そう言って珠璃は立ち上がり、本棚に向かう。並ぶファイルの中から「新輝祭関係」という背表紙の分厚いファイルをとる。そして何ページかめくり、戻ってきた。
「確かに出展されてますね。後夜祭の翌々日、返却したことになってます」
 と、書類を見せる。そこには、出展時の確認印、返却時の確認印が、生徒会・映研ともに押してあった。映研の印鑑は当時の部長のものだ。
「もし返却されてないとしたら、どこにあるか、見当がつくか?」
 凉が書類から目を上げ、珠璃に問う。
「おそらく、この下。一階の倉庫ですね」
 生徒会本部はシャングリラの二階にあり、一階は倉庫になっている。ここには学園の様々な行事のうち、体育関係以外のものに関連した備品などが主に仕舞い込まれている。
「おそらく『新輝祭』関連の箱に入っているはずですから、すぐ見つかると思いますよ。ただ……」
 と、珠璃は困ったような顔をする。
「どないしはりました?」
 杏の問いかけに珠璃は苦笑いを浮かべる。
「『倉庫』ですからね、保存状態は責任もてませんよ? ここにあるのより、映研の方で持ってるマスターとかの方がいいんじゃないですか?」
「それがな」と、珠璃の言葉には凉が応えた。
「ないんだよ、マスターも編集前のものも。だから、ごっそり紛失したって、思っててな。こいつについては部員もダビングを持っていなくて。それで、ここへ来たってわけだ」
 凉の言葉に珠璃の表情が険しくなる。
「それって、ちょっとおかしくないですか?」
「……そうどすなあ」
 と、杏も同意する。
「あたしも、おかしいとは思ったさ。普通はマスターはマスターで別に保存するものだし、編集前のオリジナルだって、それ専用に保存するはず。でも、部員連中が口を揃えて『紛失した』って言ってる以上、信じるしかないしなあ」
 と、頭を掻きながら、凉もぼやくように言った。
 珠璃は何かを考えるように顎に右手を当てる。しかし。
「考えすぎ、ということもありますね。とりあえずテープを捜しましょう」
 そう言って、二人を先導した。

 ビデオテープはすぐに見つかった。珠璃の想像通り、新輝祭関連の段ボール箱の中に、各種資料と一緒に入っていたのだ。そして、生徒会室で再生することになった。
 内容は「卒業を控えた高校生が殺人事件に巻き込まれ、それを解決する」というミステリだ。ただ。
「……プロットが今イチどすなあ。シナリオの磨き上げも不十分やし、何より、肝のトリックと謎解きが噛み合ってまへん。伏線の張り方も甘いとしか言えまへんし、人物描写にも魅力が感じられまへん。これ書いたん、多分、この3月に卒業しはった、ジン竜珠はんでっしゃろなあ」
「いや、杏、問題はそこじゃないから」
 凉が突っ込むと、珠璃も苦笑する。
「珠璃、すまないが、もう一度、再生してくれ」
「まずは、最初から八分十九秒のところですね?」
 すべてを了解したかのように珠璃がデッキを操作する。そして再生が始まる。そこは、探偵役の高校生が菱盛山の中腹あたりにある広場で、事件の検証をしているシーンだった。そして検証の演技をする役者の前を横切るように一匹の蝶が舞っていた。
「……この世の蝶ではないですなあ」
「そうですね。こうやって映像に映ってますけど、物理的実体はないですね」
「……次、やってくれ」
 凉の指示に、珠璃はデッキを操作し、二十六分四十五秒に合わせる。クライマックス、菱盛山の中腹辺りにある林の前で、真犯人が犯行を告白するシーンだ。恋人が真犯人だと知り、泣き崩れる女優のその頭上を、ひらひらと軽やかに舞う一匹の蝶。五秒ほどで画面の外へと消えていった。


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