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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第65回 肆之傳 そして蝶は舞う・漆
 話を聞き終えた零司さんは、柔らかな笑みを浮かべて、俺に言った。
「それは、悩むことで解決することなのかな?」
「……え?」
「竜輝が悩むことで、冨賀森くんや越田くんが、元気になるのかな?」
「そ、それはそうですけど……」
「いいかい。起きてしまったことはどうしようもない。起きなかったことにはできないからね。ならば、何ができるのか。悩んでいる暇と気力があるなら、そっちを考えた方がいいんじゃないかな」
 そう言って、零司さんは空を仰いだ。
「俺たちは神じゃない。人間だ。だから、いくらでも失敗するし、同じ過ちを何度だっておかす。反省したからって、すぐに成長できるかっていうと、そういう単純なものじゃない。でも、これだけは言える。悩み続けているだけじゃ、絶対に成長はしない」
 そして俺を見た。
「人間の成長っていうのは、階段を一歩一歩上がるようなものじゃない。ある時、突然に成長していることに気づくんだ。そのためには、常日頃から目の前の出来事に対して、最善を尽くそうと努力すること。力及ばなくてもいい。そういう姿勢が糧になって、ある時、人は成長するんだ。俺はそう思ってるよ」
 その言葉に、俺はふと昔のことを思い出した。
「そういえば、あの時も、そんなアドバイス、もらいましたよね」
「あの時?」
 首を傾げた零司さんに、俺は五、六年前のことを話した。
「ある修祓(しゅばつ)があって、その結果に対して、俺、すごく悩んでて。その時、零司さんが言ってくれたんです。『人間にできるのは、常に「現在」と「未来」に対する努力だけだ。過去は変えることができないし、過去に対する後悔は、するべきじゃない』って」
「そうだっけ?」
 と、零司さんは苦笑いを浮かべる。
「俺、ちょっとナーバスになってました。今回みたいなことって初めてなんでちょっとテンパってたみたいです」
「誰だって、初めて大きな仕事を任せられれば、いろいろ戸惑うこともあるさ。でも、そのために『仲間』っていうのがいるんだからね」
 俺は黙って、零司さんに深く頭を下げた。
 そう、俺が零司さんを兄貴分として慕うのは、彼がこういう人だからだ。俺より一コしか年上じゃないのに、すごく「大人な」考え方ができる。あのアドバイスのあと、ちょっとしたことで零司さんが「口だけの人」じゃないことを知り、俺の中で零司さんが目標になった。
「君らしくないぜ、もっと堂々とふんぞり返ってろ!」
 と零司さんが俺の頭をなで回す。
「俺って、そんなキャラですか?」
「ああ、そういうキャラだ」
 笑顔でそう言って零司さんは手を振り、屋上から去った。俺はもう一度深々とお辞儀をした後、景色に目を移した。
 夕空に星がいくつか瞬き始めていた。
 俺は、今の俺にできる限りのことをしよう。そして今度こそは、冨賀森さんたちのような事態は起こさないようにしよう。
 俺は、決意を新たにした。


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