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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第62回 肆之傳 そして蝶は舞う・肆
「その新薬とは、どのようなものですか?」
 護代理事長の秘書だというこの女は、まとっている『気』が普通の人間と少々異なるようだと、浦田は感じていた。ただ、それが「なんらかの行」を修めているが故のものなのかどうかまではわからない。もしかすると何らかの術者である可能性もある。それが自分の野望の障害となるのかどうか、見極める必要があるだろう。
 浦田は、表面上は何も気づいていない風を装い、石動 紗弥(いするぎ さや)と名乗った女の問いに答えた。
「詳しくは、わかりません。学生に話していた内容から推測すると、ある種の精神安定剤のようでもありますが、それ以上の『何か』のような口ぶりでもありました」
「と、おっしゃると?」
 メガネの奥で、女の目が光ったように感じた。言っても大丈夫だろうか? 浦田自身が認識している限りでは、志賀が、いや、ミハシラ・メディックスが研究している物は、天宮には知られてはならない物のようだ。断片的な単語でしかないが、それらをつなぎ合わせるとその研究はミハシラ・コーポ全体でもごく一部しか知らない重要機密であるばかりか、今後、決して外部には出さない研究のように思える。
 少し頭の中で計算し、浦田は言った。
「私にもわかりません。ですが、必要とあらば『極秘に』調査いたしますが?」
 つまり、護代真吾に命じられたこと以外の「仕事」を紗弥から請け負い、情報を二人で共有しようと申し出たのだ。いずれ、この情報は「武器」になる、と確信しているからこその誘いであった。
 女が少し唸って視線をテーブルのオレンジジュースに落とす。今度は女が計算しているように見える。
 どれだけ時間が過ぎたか。長く感じたが、おそらく数秒ではなかったか。女が不意に口元に笑みを浮かべ、浦田に顔を近づけ、小さな声で囁くように言った。
「聞かなかったことに致しますわ。私は、今の地位に満足しておりますもの」
 なかなかに鋭い女のようだ。あるいは次期社長の最有力としてミハシラグループの「外」にさえ派閥を持っている護代真吾の、その秘書として、様々な誘惑には慣れているということだろうか。これが護代に対する忠誠心からの返答であろうがなかろうが、この女に、そういう「色気」はないということだ。
 とにかく、ここで志賀あるいはミハシラの弱点を掴んでおけば、そして護代の秘書もこちら側に引き込んでおければ、あとあと有利に立ち回れると思ったのだが、そう甘くはないらしい。
「そのほかに何か気づいたことはありますか? 例えば、同業他社の者と非公式に頻繁に会っているようだとか?」
 浦田が知っている限り、ビジネス的なつきあい以外はないようだ。何人かは友人と呼んでも差し支えない関係のようだが、そこから機密漏洩といった事態にはなっていないことは間違いない。破門されたとはいえ、浦田も道士の端くれ、その気になれば、そのくらいのことは霊査できる。
 ただ、一人だけ。あの「麗亜」と呼ばれる女だけは、一向にわからない。浦田の技量が未熟故、この麗亜については何一つ、霊査できないのだ。
 この女についても言うべきか。しばし計算し、浦田はこう答えることにした。
「今のところ、志賀専務の周辺に、不審な人物は見られません。志賀専務自身にも、不審な動きは、ないと言ってもいいでしょう」
「そうですか」
 これを信じたかどうかは、表情からは読み取れない。女は手帳に何やらメモると笑顔になった。
「今日は、たいへん有り難うございました。この調子で今後もお願いいたします。……くれぐれも身に余る野心など、抱かれませぬよう」
 きっちりと釘を刺し、女は立ちあがった。
 そして二人して店を出る。ドアを閉めたところで、浦田は小さく呪文を唱えた。このあたりに潜ませておいた式神の発動呪文だ。念のため、この女が一般人なのか、それとも何らかの術を使う術者なのか、確認しておきたい。のし上がっていくために、浦田はどこかの時点で呪術を使うだろう。その時に、それを無効にできるような技量を持った呪術師だった場合、充分、障害に成り得る。それをここで確かめておきたいのだ。


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