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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第61回 肆之傳 そして蝶は舞う・参
 新輝市の西隣にある豊穂高(とよほだか)市。そこにあるバー「セピア・ボックス」が、落ち合う場所だ。予定の五分前に行くと、浦田はすでに店の前で待っていた。軽く挨拶を交わすと、店内へと入る。開店してすぐということもあるのか、客は浦田と紗弥だけだった。
「なかなか、感じのいいお店ですわね」
 十五、六人も入れば一杯になってしまうような、そんな狭さは感じるが、千九百六十年代を意識したと思しきBGM、古い映画のポスターやポートレートを飾った壁、石畳をイメージした床の模様など、古臭さがかえって新鮮だ。
「有り難うございます」
 四十半ばと思しきバーテンダーが笑顔を返す。
 浦田と紗弥は奥まったところにあるテーブルに着く。トイレのすぐ近くだが、それだけに入り口からは死角になっており、また、カウンターからも適度に離れているおかげで密談にも向いている。
 車で来ているから、という理由で浦田はウーロン茶、紗弥はオレンジジュースだ。
「バーに来て二人ともお酒を注文しないのは、嫌がらせに近いですわね。これなら、喫茶店でもよかったのでは?」
 厭味、とまではいかないが皮肉な笑みを浮かべ、紗弥は浦田を見る。浦田はがっちりとした体型で、格闘家の印象がある。目つきが鋭いせいで、少々「危険な仕事」についているのではないか、とさえ思える。背中まである髪は首の後でチョンマゲにしているが、その髪留めには呪力の籠もっているのが、感じられた。
 浦田は、表情を変えずに言った。
「ここは、ある程度『融通』がききますから。バーテンダーもマスターも口が堅いですし」
 ひょっとすると、一定時間、貸し切り状態にでもしているのかも知れない。そう思っていると、浦田がいきなり本題を話し始めた。
「志賀専務は社内で特別なプロジェクトチームを組んで、何かの研究をなさっています」
「ある程度は、存じてますわ」
「そこで開発された新薬あるいは試験薬を、所定の手続きを経ずに社外へ持ち出しているのです」
 それこそが重要な点だ。その新薬は一体、どこへ行っているのか?
「まさかとは思いますが、その新薬はライバル社へ流れているようなことは?」
 自分でも眉の間に皺の寄るのがわかる。これは演技などではない。ミハシラで極秘裏に研究している「物」が世間に出回るようなことにでもなったら、「たいへんな騒ぎ」どころの話ではない。先日来、起きている新輝学園生徒による怪事件、あれが日常茶飯事になってしまうかも知れないのだ。そして、それこそが、天宮の人間が多数、ミハシラに潜り込んでいる理由でもある。必要なら、その研究を「破壊」するのが、彼女たちの真の任務なのだから。今のところ『天宮がミハシラの極秘研究に気づいている』ということを、ミハシラ側に察知された様子はない。あくまで表向きは、「天宮はミハシラに土地を貸し、学園を経営させるかわりに、呪術的に補佐をする」関係なのだ。
少しだけ考える素振りを示し、浦田は答える。
「あくまで、私が把握している限りですが。志賀専務が持ち出した試験薬は学生に渡っています。私が知る限り、志賀専務が試験薬を持ち出したのは、数量はまちまちですが四回。二回は新輝学園の生徒に、二回のうち一回は新輝北女子校の生徒に、もう一回は志賀専務ご自身が服用なさったようです」
 新輝学園の二回は、この間から続いている事件の関係者だろう。北斗にある新輝北女子校には、一年に天宮の関係者である冨士見 舞羅(ふじみ まいら)が在籍しているが、事件らしい報告はなかった。あるいは対象となった女生徒は服用しなかったか、目立った効果がなかったのかも知れない。
 紗弥は次の質問に移った。


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