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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第60回 肆之傳 そして蝶は舞う・弐
 予測可能な範囲といわれたら、確かにそうだったかも知れない。ミハシラ・コーポには、ある理由から、系列会社も含めて多くの天宮関係者が、それとなく入り込んでいる。もちろん、ミハシラ・メディックスにも何人かいる。そして、護代 真吾(ごだい しんご)も、己が派閥の『盟友』を系列各社においている。そんな『盟友』を監視するために自分の手足ともいえる者を、その近くにおいているであろうことも容易に想像できる。
 そして、その手であり、足である者が天宮の関係者である可能性は、高確率ではないだろうが、ゼロとは言えなかった。
「正確には、元関係者ってところね」
 火曜日、午後八時。愛車であるハイブリッドカーの中で、石動 紗弥(いするぎ さや)は前日、真吾から渡された『内通者』の資料に改めて目を通していた。
「浦田 将兵(うらた しょうへい)。三十七歳。志賀専務の私設ボディーガード。……なるほどね」
 表面上は、アレックスが個人的に雇った私設ボディーガードである。だが、彼に浦田を紹介した人物が、真吾の息のかかった者であることは、生来のお坊ちゃん育ちだというアレックスには、想像すらできないことであろう。
 浦田の経歴については、数年間、海外で武者修行をしていたということが真吾からの資料にあった。おそらくその数年間が、「天宮で修業していた」時期ということなのだろう。
「天宮の末端の、その弟子でしかも十年前に破門されてる。だから、向こうにこちらが気取られることはないと思うけど。……実力的にも」
 天宮宗家から入手した資料を見ながら、紗弥は考える。この浦田の真の経歴については、おそらくは真吾でさえ知らないだろう。
 それはともかくも、天宮の正式な関係者でない限り、こちらの素性を知られるわけにはいかないだろう。知られたからといって、すぐにどうにかなるというわけでもないだろうが、相手は「破門されている」身、念には念を、というやつだ。あくまでも「護代理事長の秘書」として彼に接し、情報を得る。これが彼女の今回の任務だ。
「それじゃあ、いきますか」
 呟き、彼女は車を出す。向かう先は隣の市にあるバーだ。約束の時間にはかなり早いが、周囲を回って「気」を馴染ませておく必要もある。それまで止めていた宝條の公園駐車場から、幹線道路へと出ると、紗弥は、加速させて目的地へと向かった。

 浦田が事前に連絡を受けていたのは、護代理事長の秘書だという女性からだった。芯の通ったような声からは、一筋縄ではいかないだろうことが推測される。破門されたとはいえ、浦田も、かつては天宮の流れを組む道士の元で修業を積んだ身だ。声の張りから、相手の心の強さを推し量るぐらいはできる。午後八時三十分。約束の時間には一時間ばかり早い。落ち合うバーもまだ、開店前だ。なので、近くの喫茶店で適当に時間を潰している。
 彼は、立場的には志賀専務の監視役だ。だが、ただそれだけで終わるつもりは、当然なく、いずれは名を遂げたいと考えている。今回のことがその足がかりになるとは思えないが、ことの運ばせようによっては、護代理事長によい心証を抱かせることができるかも知れない。そのためにはこれから会う秘書に、微塵も疑念を抱かせてはならない。もっとも、相手が「その気」なら、こちらもそれなりの野心を匂わせるという手もある。
 ただ、と浦田は思う。志賀は自分から見ても典型的な「ボンボン」だ。護代理事長としては「ミハシラ・メディックス」という基盤が必要なのであって、そのために自身の派閥の一員であるミハシラ・メディックス現社長の、息子であるアレックスを裏工作で専務に据え付け影響力を保とうとしているだけにすぎない。そもそも護代は「志賀修一」という個人を重視していないフシがある。そんな人物に「張り付け」と命じられている自分もまた、さほど重要視されていないのではないか。いうならば、ミスをすることがわかっている人物であり、そんな人物の監視など、誰にでもできるからだ。
 だが、今はそういう状態でも、自分は必ず成り上がって見せる。そして……。
「あの女を、必ず見返してやる……!」
 思わず心の中の思いを呟いてしまい、浦田は慌てて周囲を見た。幸い、店に流れているBGMが流行りのポップスだったおかげで、三、四人ほどいる客の中で雑誌に集中していない者は、その曲の方に耳を傾けているらしかった。
 軽く溜息をつくと、浦田はすっかりぬるくなったコーヒーを口に運ぶ。
 ふと、修業時代のことを思い出した。確かに自分は未熟だったのだろうと思う。感情をうまくコントロールできず、問題を起こして迷惑をかけ、いろんなことを逆恨みして兄弟弟子に怪我を負わせ、破門された。その時は師を恨んだ。……いや、今でも恨んでいる。師だという理由で男女のつきあいにまで踏み込んでくるなど、到底認められるものではない。それが例え「霊格」や「縁(えにし)」などという理由に基づくものであったとしても。
 大体、そういうものを覆すのが、神仙道ではないのか!? そう問うた時、師は静かに首を横に振った。当時は理解できなかったし、今でも理解できない。
「……まあ、いずれわかるさ、どちらが正しいのか」
 呟きコーヒーを飲み切る。
 苦さ以上の味は感じなかった。


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