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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第59回 肆之傳 そして蝶は舞う・壱
 夜の林の中を駆け抜ける影は、形こそ人のカタチをとってはいるが、その関節や動きは人と似て非なるモノと言わざるを得ない。その数、十余り。みな一様に何かから逃げているかのようで、実際、それらは逃げているのであった。
「おっと、このぐらいでおしまいにしようぜ」
 その影を追いかける一人の男。響堂 零司(きょうどう れいじ)だ。
 零司はジャケットのポケットから何かを取り出した。それは一見、ピアノ線の束。その先端には銀色に輝く小さな飾りがある。その飾りは一見翼を広げた鳥のような形をしている。
 零司は小さく気合いを入れてその飾りを投げる。その後の光景は、いかなるマジックであったか。飾りはまるで生きているかのように木々の間を縫い、一つの紋様を描いて零司の手元に戻った。
「祓い給え清め給え」
 零司の口から発されたその言葉に呼応したように、糸が光を放つ。
 銀の鳥が、糸を使って木々の間に描いた紋様が、昏い(くらい)林の中で妖しい光を放つ。その光は、空から見れば、天宮流に伝わる破邪の符であった。
 糸によって築かれた符の中に、閉じ込められた影たちは、声なき声を上げ、消滅していく。
 その中で一つだけ、空に飛んで林の上空に逃げ出したモノがいた。だが。
 そのモノの前に光の球が現れた。宙に浮かぶ光球は、中に一人の人間を宿している。否、この人物が己が周囲に光球を作っているのだと、影に理解できたかどうか。光球の中の人物はロングスカートをはためかせ、回し蹴りを影に放った。蹴りを受け、影は地目がけて墜落する。その体は、地上一メートルのところに張り巡らされた破邪の符に触れるより早く、爆発四散した。
「とりあえず、こんなもんかな。すまなかったな、杏(きょう)」
 糸を回収した零司の前に光球は着地する。光が消えるとそこにいたのは、天宮 杏(あまみや きょう)だった。
「いえいえ。これも、お勤めです」
 柔らかな笑みで杏は答える。
「もう八時か。習い事とか、あったんだよな。悪かったな」
 零司はケータイで時間を確認しながら頭を掻く。
「かまいまへんえ。こちらの方が何よりも優先することですさかい」
 杏は涼しげに言う。
「ところで、零司はん。このお山、ほんまに普通の、お山ですやろなあ? どなたさんかがお作りになった要塞とか、誰かさんのお墓とか、そういうことはありませんのやろなあ?」
 二人が今いるのは、学園の北東にある小さな山だ。この山は隣の市にもまたがっているが、丘というには大きく、山と呼ぶには小さくて、周囲の山系からも切り離されて独立している。しかも、正確ではないが、南北に対して左回りに約四十五度傾いた、ほぼ菱形をしているため、「人工的に作られた山」あるいは「古代の墳墓」という説が根強い。江戸時代末期に歴史学者・吾妻(あがつま) 齋哲(なおあきら、または、さいてつ)によって「かつて貴人を埋葬せる旨、古人より伝え聞きしとぞ」とされた「比良密島山(ひらみつとうざん)」こそ、ここであるという説が明治の初め頃には唱えられており、「比良密島」を「ピラミッド」と読んで「日本のピラミッド候補」になったこともある。
「そりゃあ、ないな。ここは、昔は東賀の方の山系と繋がっていたらしい。それが何万年前だかに起きた火山爆発で噴き飛んで、山体が変形したらしいんだ。このあたりは今でこそ死火山だが、昔は活火山だったらしいしな。そのことは地質調査だのなんだので明らかになってる。そもそも吾妻某(なにがし)が書いた『比良密島』って、『黄泉津比良坂(よもつひらさか)』の『秘密』がある『島』っていう意味の造語だっていう説もあるしな、眉唾だけど」
「さすが零司はん、この手のお話は詳しおすなあ」
「まあな。それに天宮の地相師の『見立て』でも、ここは『ただの山』だってことだったし、霊視の結果も、古墳とかじゃないってことだったし。ただ……」
「ただ?」
 と、杏は首を傾げる。
 もったいをつけるわけではなく、言葉を選びながら、零司は次なる言葉を紡ぎ出した。
「この山を『何か』に『利用』することは充分、可能らしい。そして、実際に何者かによって……」
 そこから先は不要だった。実際にさっきのような「モノ」が出現するなど、普通の山では有り得ない。
 何者かがこの山を利用して、何事かを仕掛けた、あるいは仕掛けようとしているのは間違いないようだ。


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