小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第49回 参之傳 君よ、星を掴め・拾壱
「ミハシラ・メディックスは製薬会社だ。こう見えても私もいろいろと勉強している。その中には、メンタルヘルスに関するものもあってね。非公式だが、社員のメンタル・ケアのお手伝いもさせてもらってる。そんな関係で、相手を見ると悩みを持っているかどうかっていうのがわかるんだ」
 急激に鼓動が早くなる。あの女が言っていたのは、このことだろうか?
「どうだろう、我がミハシラの関係する学園の生徒さんが悩みを抱いて、私の前にいる、これも何かの縁じゃないかな? よかったら、話してみてくれないか? これでも君よりは、長生きしているから、アドバイスの一つもできるかも知れない。よしんばアドバイスできない内容だったとしても、話すだけで心は軽くなる。もちろん、秘密は厳守するよ」
 どうしたものだろう。話すべきか? だが自分の抱えている悩みは、この人物に話したところで解決するようなものではないだろう。
 しかし。あの女の言っていたことは、当たっていたではないか。だとすると、この人物が助けになってくれるはずだ。
 逡巡の時間は、どうやらイージーリスニング一曲分の時間があったようだ。気がつくと、ミドルテンポのボサノヴァから、アップテンポのスウィングに、店のBGMは変わっていた。
「あの、実は……」
 意を決して、星一は話し始めた。確かに夜空で輝いていたはずの星が、見えなくなった、なんて話したら、相手は笑うかも知れない。そう思いながらも、それなりの立場にある人間なら、むやみに笑い飛ばしたりはしないだろう、と、期待しつつ。

 時間にして、十二、三分ほどだっただろう。一方的に星一が喋るだけで志賀はただ、聞くだけだった。
「なるほど」
 話を聞き終え、志賀は腕を組む。その表情と所作は、まるで重要会議で難問にぶつかったかのようで、星一を不安にさせた。
 しばらく、といっても実際には五分と経っていないだろう。志賀は口元に笑みを浮かべてこう言った。
「気を悪くしないで欲しい。もしかすると何らかのストレスが関係している可能性がある」
「ストレス?」
「そう。私は星のことは詳しくない。だから、あくまで君から今聞いた話を元に、私なりに推測するんだが、おそらく君は何らかの強いストレスを抱き、そのせいで、本来見るべき方角を、見誤っているのではないかな?」
「……新しい星を見つけた、その方角を間違っているってことですか?」
「そう。君は新しい星を見つけた。だが、強いストレスのため、次の日から、見るべき方角を誤ってしまった。間違った方向なのに、正しいと思い込んでいるのかも知れない」
 思い当たる節は、ない……と思う。だが、そんな風に考える星一には構わず、志賀は言った。
「まずはそのストレスを取り除くことだね。リラックスできればいいが、そう簡単にできるなら苦労はない。どうすればいいかな?」
 そう言って、志賀は考え込む。見ず知らずの学生のために、そこまで真剣に考えてくれることに、星一は、うれしさを感じずにはいられない。
「……そうだ」
 何かに気づいたように、志賀は持参したカバンから、小さな袋を取り出す。
「君にこれをあげよう。我が社の新薬、その試供品だ」
 言いながら、中身を見せる。一つ一つが真空パウチされたような薬包だ。中にあるのは、光を透過する焦げ茶色をした、正三角形の板状のもの。大きさは100円玉ほどだろうか。
「これにはね、神経の働きを活性化する効能がある。もちろん、精神の安定にも効果はある。相反するようだけど、服用数を調整することで、可能にしたんだ」
 精神分野での薬剤だが、服用する量によって、効果をかえるものは実際に存在する。
「え? でも、高価なものなんでしょう?」
 恐縮しながら言うと、志賀は笑った。
「気にすることはない。試供品だからね、取引のある薬局や病院には無料で配っているシロモノさ。せっかくだから、君にもあげよう。大事な我が社の学生さんだからね」
 いうなれば精神安定剤だ。はたしてこんなもので、星がまた見えるようになるのか。
 疑問ではあったが、ここで断るのも、悪い気がする。星一はそれを受け取った。
「服用の方法は簡単だ。舌の上に置くだけでいい。できれば、食後の方がいいからね、コーヒーを飲んだら、すぐに服用するといい……」
 志賀は笑顔で、言った。その笑顔にはどこか『陰』があったように思ったが、星一は気のせいだと思うことにした。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 376