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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第48回 参之傳 君よ、星を掴め・拾
 時間にはまだ早い。
 午後七時、星一は宝條三丁目の通りを歩いていた。ここはどちらかといえば住宅地が多い。しかし、ところどころにテナントビルがあり、飲み屋だの喫茶店だのがある。
 前日の夜、星一は再び児童公園に行ってみた。迷いに迷ったのだが、女の言った「自分だけの星」という言葉の誘惑には、どうしても抗えなかったのだ。そして行った先で女は待っていた。そこで女は、はっきりと言ったのだ。
「見えなくなった星、消えたわけじゃないわ。あなたが『認めようとしない』だけ」
「認めないって、何を?」
「あなたの気持ち。あなたが抱いている、本当の気持ち」
 正直、女の言うことが理解できない。だが、一つだけハッキリしていることがある。この女は、星一と美悠那しか知らないはずの「星が見えなくなったこと」を知っている。美悠那がこの女と知り合いである可能性は捨て切れないが、その可能性は限りなくゼロに近いと、星一は判断した。
 つまり、少なくとも、この女は星一しか知らないはずのことを知っているのだ。それは超常のことであり、この女がただ者ではないことを知らしめる。
「もしもう一度星が見たければ、明日の晩、今から言う場所に制服を着て行きなさい。そこで出会う人が、あなたの助けになってくれるはずよ」
 そう言って艶然と微笑む女から、モヤのようなものが現れて星一を包んだような気がした。女の黒いストッキングに、金色の糸で刺繍された蝶が、動いたように見えた。

 女に言われてやって来たのが、宝條三丁目にある喫茶店「茜空」だ。だが、言われていた時間は午後七時半。少々、早く来すぎてしまったようだ。店内に入ると、中はマスターとウエイトレス以外、無人。つまりは星一以外、客はいなかった。
「単なる占いなら、それでもいいか」
 コーヒーを注文し、星一は店内を見る。店には窓はなく、どこか地下室のような印象がある。ボックス席は三つ、カウンター席が六つ。こじんまりとした店だが、煉瓦調の壁といいガスランプ風の照明といい、雰囲気はなかなかよいところだった。
 これなら、落ち着いて待つことができるだろうと思った時、ドアが開いて一人の男が入ってきた。そして、ふと、星一を見る。
「おや? 君は新輝学園の生徒さんだね?」
 その男は二十代後半だろうか。長身でスーツ姿だ。髪は茶色だが、顔つきがどことなく日本人ぽくないから、案外染めてはいないのかも知れない。
「ここ、いいかな?」
 ボックス席に座った星一の向かいを、男は指差した。
 どうしたものかと星一が思っていると、
「おっと、すまない。私はこういうものだ」
 と男は名刺を取り出した。そこには「ミハシラ・メディックス専務取締役 志賀 修一」とあった。
「……え!?」
 驚きとともに、星一は男を見る。男はすでに椅子に座っていた。驚きの種類は様々だった。若いのに専務だったり、そんな偉い人がこんなところに一人でいたり、一学生の自分に声をかけてきたり。
「随分と、困惑してるようだね」
 と、志賀は微笑む。
「い、いえ、別に」
「気にしなくていい。多分、今君が抱いている疑問は、私と初めて会う人間の大部分が、抱く疑問だ」
 軽く笑って、志賀は言う。ウエイトレスにコーヒーを注文してから、志賀は言った。
「私はね、社長の息子なんだ。まあ、いろいろと難しい問題もあって、私を専務の位置に据えてあるっていうことなんだよ。もちろん、まだ若い私が専務なんてやることに対して反対する向きばかりだけど、それを押さえるだけの力があるっていうことだね。その背後には、ミハシラ・コーポに組み込まれたっていう部分もあるんだけど」
 正直、一高校生に過ぎない星一には、容易に理解できる話ではなかった。特に大会社故の派閥力学の話になると、理解するとかどうとかという話ではなく、生理的心情的に受け付けない部分もある。それは一応理解しているようで、志賀も踏み込んだ話まではしなかった。ただ、なんとなく、だが、「専務とは役職ばかりの話で、本当は年齢相応の青年なのだ」というのを強調したがっているのを、星一は感じ取った。
 こんな風に注文したものが来てからも、しばらくは雑談(もっとも、志賀の方が一方的に話しているが)だったが、ふと、志賀はこんなことを言った。
「君、何か悩みがあるんじゃないかな?」
 それまで適当に相づちを打っていた星一の胸が、ドキリとなった。


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