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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第45回 参之傳 君よ、星を掴め・漆
 まず先に言っておく。住宅街の中にあるあの店、「エテールノ・ジョイア」には落ち度はない。問題も、少なくとも現時点では、ない。パティシエがやたら制服女子高生にこだわってるらしい、っていっても、問題起こしてるわけじゃないしな。制服女子高生、特に美悠那にサービスチケット乱発してたのは、ほんとにサービスの一環だろうし。
 ただ、やっぱり甘いもの尽くしってのは、少々堪えた。確かに、軽めのランチの時にはガーリックトーストにコンソメスープだったし、途中で何か辛めのペースト(店オリジナルのもので、ニンニクとかタマネギとかトウガラシとかいろいろ混ざってるらしい)をポテチにつけて食べたり、と、アクセントはついてたんだが。
 でもやっぱり俺にはきつかった。美悠那のヤツは終始幸せそうな顔で食べてたけどな。
「俺、しばらくスイーツは見たくねえや」
 ぼやきながら店を出ると、美悠那は「ええー?」と、心底不思議そうな顔をした。
「お前の血って、煮詰めたら新しいスイーツとかできそうだよな」
 遠回しに血糖値が高ぇだろ、って突っ込んでみる。
「そしたら、一番に竜輝に食べさせてあげるね」
「それは勘弁」
 イタズラっぽく笑う美悠那に、俺は苦笑を返すだけだ。

 時間は午後二時前。美嶋から宝條側のバス通りまで来た俺たちは、せっかくだから、どこかそこらへんで遊んで帰るか、なんて話していた。そしたら、美悠那が誰か見知った人を見かけたらしい。
「あ。星ちゃん」
 美悠那の声に、たった今走り去ったバスから、降りてきたらしい一人の長身の男性が振り返る。
「やあ、美悠ちゃん。そっちの人は、カレシかい?」
「違う違う」
 と、明るく笑って美悠那は答えた。
「スイーツ研の見習い会員」
 と、俺を紹介する。いつの間に見習い会員になってんだ、俺?
「そうか」
 と、男性は笑う。
「いや、本気にしないでくださいね?」
 年上っぽかったので、敬語で否定しておいたが、笑顔の感じからして信じてないっぽい。……ていうか……。
 なんだ、この人? なんか、妙な「気」をまとってるな?
「星ちゃんはどうしたの? お買い物?」
「いや。美嶋南に通ってる塾があって、そこで今度、模試があるんだ。その申し込みに、ね」
 そして、二言三言、多分二人だけにわかる会話をして男性は去って行った。
「なあ、今の人って?」
「三年の、越田 星一(こした せいいち)さん。あたしの幼馴染みのお兄ちゃんってところかな?」
「へえ。ていうことは、昔から知ってるのか?」
「うん。小中高って一緒だったからね。腐れ縁、ての?」
「なるほど。……ちょっと変なこと聞くけど、最近、変わったところとかないか?」
 出し抜けに言った俺の言葉に、顔全体にクエスチョンマークを貼り付けた美悠那は、首を傾げる。
「どゆこと?」
「あー、んーとー……」
 まさか、「妙な『気』をまとってるから」なんてこと、言えねえしなあ。だから、嘘も方便、適当なことでごまかすことにした。
「なんていうかさ、悩んでるように見えたから」
「うーん」
 と、美悠那も腕組みをする。
「そういえば、『星が見えなくなった』とかって、言ってたけど」
「? なんだ、そりゃ?」
 わけがわからねえ。どういう意味か聞こうとした時。
「あら、竜輝はん」
 と、涼やかな声がした。俺と美悠那は声のした方を見た。歩道をゆっくりと歩いてくる一人の女性。ややスレンダーな清楚な雰囲気の若い女性。何より、腰まで真っ直ぐ伸ばした長い髪は、黒く美しい艶を誇っている。東洋的な面差しは、間違いなく美人と言っていいだろう。
「あ……。え……と」
 俺がどもっていると、美悠那が先に口を開いた。
「三年の、天宮 杏(あまみや きょう)先輩ですよね?」
 そうか。杏さんは俺よりも先に学園に来てたんだ。それにこんな美人だから、知らない人は少ないだろう。美悠那が知ってても不思議はない。
「あら。美悠那はんやないの。どないしたの?」
「美嶋の『エテールノ・ジョイア』で、スイーツパーティーがあったんです」
「へえ」
 と、杏さんは俺を見る。
「竜輝はんも隅に置けまへんなあ。珠璃はんという、エエ女性(ひと)がありながら。でも、まあ、天宮の男ですさかい、それぐらいの甲斐性ないと、あきまへんえ」
 柔らかな笑みと物言いで、杏さんはそんなことを言う。この人の中で、俺はどういうことになってるんだろうか? いや、それより、表情も物言いも柔らかいのにどこか冷やっこい。喩えるなら、真綿でナイフを包んで喉元に当てられてる感じだ。
 ていうか、俺、こっちに来て、この人に挨拶してないんだよなあ。お互い、いろいろタイミングが合わなくて、そのままずるずる来ちまったんだが。
 やっぱり時間作ってでも、挨拶しておくべきだったな。零司さんにも「杏にはちゃんと顔見せとけよ」って言われたのにな。


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