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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第30回 弐之傳 疾走する頭脳・拾壱
 珠璃は目抜き通りを離れ、少し裏手の道に入る。そして、静かに念を集中した。学籍簿や各種資料にあったデータをもとにして、再び霊査をかけた。生年月日、性別、出身地、居住地などで絞り込みをかける。
 やはり、感じる気配は三カ所。しかし。
「……驚いたね。こういうのもラッキーって言っていいのかな?」
 と、上を見上げる。今いるのは八階建てのマンションと五階建ての雑居ビルとの間の道だ。その気配は、マンションの屋上の方にあった。
 ゆらゆらと揺れる白い影。
「三つのうちの一つか」
 そう言うと、珠璃は周囲を見回す。人の気配がないことを確認し、珠璃は全身の気を調律する。精神だけでなく肉体にも超常の氣を巡らせ……。

「人」を超える。

 そして、小さく気合いをかけ、ジャンプした。マンションの壁を蹴り、いったん、雑居ビルの屋上に着地する。そこで再び、氣を巡らせ、飛び上がる。体をひねって、マンションの屋上に着地した。ふと、屋上階の壁に立てかけてあったガラスを見る。周囲の明かりの加減で鏡面と化したそこに、珠璃の姿が映っていた。黒いTシャツにピンク色のジャケット、黒いジーンズ。服装はいたって普通だ。だが、栗色だった髪は金色に輝き、髪に隠れていない右目は燐光を放っていた。
「さて」
 と、珠璃は白い影を見る。
「キミは冨賀森さんの……。なるほど、奇魂(くしみたま)か」
 古神道では、流派による差違はあるが、人間の霊的姿を「一霊四魂(いちれいしこん)」と捉える。即ち「直霊(なおひ)、和魂(にぎみたま)、荒魂(あらみたま)、幸魂(さきみたま)、奇魂」だ。これらの働きについては諸説ある。直霊を人間の本体、四魂をその働きとする説、四魂のうち和魂の働きを幸魂・奇魂にわけるという説。
 今、珠璃は目の前の白い影を冨賀森の「奇魂」だと感じた。奇魂の働きは読んで字の如く「奇跡的な事象をもたらす」ことであるとする説や「智を司る」という説、「事象を結びつける」という説などがある。天宮流ではそれらすべてを受け入れ「様々な事象を結びつけて奇跡的現象をもたらし、精神活動としては『智』に現れる」としている。
 白い影は、星の見えぬ夜空を眺め、ひたすらぶつぶつと呟き続けている。それは明らかに日本語ではない。いや、地上におけるどの言語とも異なる言葉、否、オトであった。
「速やかに、本体のところに帰ってもらうよ。でないと、修行者でも道士でもない冨賀森さんが、憔悴してしまうからね」
 そして鎮魂の印を組む。
「ちょっと変則的なやり方だけど、今はこの方法しか……」
 呼吸を整え、「呪」を唱える。
「アハリヤ、アソバストマウサヌ、冨賀森直彦ノクシミタマ、モトツカラダニ、カエリマシマセ……」
 作法に則り、いくつか印を組み替え、「呪」を唱えていく。やがて、ぶつぶつ呟きながら、白い影はどこかへ引っ張られるように長く伸び、変形し、突然に消えた。
「……あと、二つ」
 再び精神を集中し、珠璃は霊査に取りかかった。

 姉貴の車で宝條まで送ってもらった俺は、「氣」を高め、宙を舞っていた。爺さんによると「浮遊」とは宙に浮くことではなく「周囲(まわり)から支えられて堕ちない状態」のことだというし、「飛行」とは飛ぶことではなく「周囲(まわり)の特定の方向から別の方向へと弾かれる状態」なのだそうだ。
 修業半ばの俺にはまだ飛行という芸当は無理だが、地上から十階建てのマンションの屋上に一気に飛び上がるぐらいなら何とかできるし、周囲の力場をコントロールしてジャンプしたあとに方向を変えることもできる。
 そして俺は今、夜の街、その上空をフラフラと飛び回る赤い影を追跡しているのだ。あれは、おそらく冨賀森さんの荒魂だろう。荒魂はともすれば破壊的な力を示すこともあるが、冨賀森さん自身が智力優位の人なのだろう、そんな素振りは見えない。またもし冨賀森さんの制御下にないなら、暴れ回るところだろうが、そういう気配もない。多分、冨賀森さんは失神しているだけの状態なのかもしれない。
 しかし。暴れ回らないからまだマシだが、とにかくちょこまかと素早い。金縛りの念咒(ねんしゅ)を撃ちたいところだが、狙いが定められない。これが妖怪だとかその類のモノだったら容赦なく攻撃して動きを止めるところだが、相手は一般市民、そういうわけにはいかない。
 と、その時、地上から何か光の玉が飛び上がった。その光は軽く蹴りを放って俺の方へ赤い影を飛ばす。
 その光の主が誰であるのか、一瞬で理解した俺は、とりあえずこのチャンスを最大限に活かすべく、金縛りの念咒を放った。すかさず「送神」の呪法に入る。
「アハリヤ、アソバストマウサヌ……」
 かくして赤い影はどこかに引っ張られるように消えていった。
 光の玉はすでになく。
「……無茶苦茶するなあ、杏(きょう)さん。加減はしてるだろうけど、冨賀森さんになんかあったら、どうするつもりなんだろうね」
 苦笑いで、俺は呟いた。


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