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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第29回 弐之傳 疾走する頭脳・拾
 思考は連鎖し、考察は組み立てられ、思惟は止まらず。脳がフル回転するとは、こういうことであったか、と冨賀森(とがもり)は、実感していた。彼が今いるのは、宝條一丁目にある雑居ビルの屋上だ。本来なら夜間立ち入り禁止の場所であるが、彼の今の知能をもってすれば、管理人を騙し、立ち入ることなど容易であった。否。管理人は冨賀森の思考に感化されたかのようにさえ見えた。まさに冨賀森の「思うとおりの」反応を見せ、「思うとおりの」行動を取り、「思うとおりに」驚いてみせ、思うがままに冨賀森に屋上へ行く許可を与えたのだ。
 思考の先回りだ、と冨賀森は思う。相手の行動から心理を探り、行動パターンを読む。その先回りのデータをもとに相手を理論誘導する。俗に「読心術」と呼ばれるものは、他者の何気ない言動からその深層の心理すら読み取り、己の中に他者を再現せしめ、そこに構築された他者の思考をトレースすることで成し遂げられるのだ。そこからさらに進んで相手の「心」に共感する思考を差し挟むことにより、あたかも相手をコントロールするかのような「思考の連結」が生まれる。
 今のは、そのような高度な次元の頭脳活動を、ごく自然にやったことなのだと、冨賀森は思う。
 そして、屋上から街を見下ろす。ネオンは彼の思考の鮮やかさをきらびやかに称え、街の喧噪は彼の思考の鋭さを賛歌として捧げる。彼の目に映るもの耳に入るものすべてが、彼を褒め称え、賞賛していた。
 それだけではない。今、彼は脳内でシナプスが成長する「音」を感じているのだ。その中で彼の思索はとどまるところを知らず、今や、宇宙の本源と実相にすら迫ろうとしている。
「ふ、ふ、ふ。いいぞ、実にいい。宇宙とは、そうであったのだ……! すべての宇宙は頭脳に畳み込まれ、必要に応じて引き出されているのだ……!」
 ぶつぶつと、呟く冨賀森だったが、不意に高揚感が失せた。
「む……! これ、は……!?」
 先刻、あれほど明確に感じられた宇宙の「姿」が、今は全く見えない。ネオンはけばけばしく、街の音は耳障りなノイズでしかない。
 脳内に響くのはシナプスの成長する音ではなく、奇妙な、オト。それはまるで、生物の発するコエのようだ。
「う……、うあ、……あ、あ、あ、あ……う」
 意味不明な声を発しながら、冨賀森は尻餅をつく。頭の中の雑音が止まらない。それだけではない。
 なぜかわからないが、頭頂部に掻痒感がある。それも内側から。
「が!」
 突然、一声上げて、冨賀森は硬直した。
 何が起きたか、理解できない。
 いや、「理解する」という思考活動を司る意識の主体そのものが、曖昧模糊(あいまいもこ)として、とらえられない。その、曖昧模糊なものを「とらえ」ようとしている意識の主体は、はたして誰なのか。冨賀森なのか、それとも別の「何か」なのか。
 何が起きたかわからぬまま、冨賀森は仰向けに倒れた。

 家に帰り、道場で例の結晶を「ほどく」作業にとりかかった。姉貴がサポートとして、精度を上げるための結界を敷く。
 作業そのものは十分ほどで終わった。ただ、準備とかに時間がかかったからな、時刻は午後八時を少し過ぎていた。
「どうだった?」
 姉貴が聞いてくる。
「うーん」
 と、俺は感じ取った「モノ」を整理する。この手のこと……オーラや残留する「気」からそのものが何であるかを突き止める作業については、いろいろなものを使って修業した。例えば「心地よい冷たさをもっていて包み込むようでありながら何かを絶えず放射しているなら水晶」とか、抽象的なものだと「甘みを持った白い光」なら、満月、それも秋頃の、とか。……これはあくまで、俺の感性でのとらえ方だから、ほかの霊能者とか超能力者なら違う表現になると思う。深く考えないでもらいたい。
 ま、そういうわけで頭の中と、感性で様々にファイリングしているわけだが。
「一つは多分、デンプン、あるいは芋の粉とか。もう一つは、砂糖、かな? あといくつかあるんだけど、そのいくつかってのが、よくわからない」
「今まで、視たことないモノってこと?」
「その可能性もあるし、あるいは複合されていて、特定できないのかも知れない。もしかしたら、物理的なモノでない可能性もある」
 なんだかよくわからない感覚だ。はっきりわからないと、ちょっと気持ち悪い。
「もう少し時間があって、儀式も簡略化したものじゃなくて『日取り』と『刻』を考慮した正式なものなら、突き止められると思う」
 急な話だったから、簡略化した儀式にならざるを得なかったが、本格的なものなら、もうちょっとわかるような気がする。
「とにかく現時点でわかるのは、このぐらいだな」
 と、俺たちは母屋へ戻った。部屋へ戻ると、携帯に不在着信が八件。いずれも珠璃からだった。
 俺は折り返して珠璃に電話した。ほぼ二〜三分おきにかけてきている。最新のものは一分前だ。
「……。お。珠璃か。どうした? 着信履歴見たら、随分、急ぎの用事だと思うんだが? ていうか、なんか雑音すごいな、今、外にいるのか?」
『例の、冨賀森っていう三年生なんだけど。一応、話が聞きたくて連絡先を調べて電話したら、どうやら自宅に帰っていないらしい! 妙な胸騒ぎがしたからね、霊査をかけてみたら、宝條に反応があったんだ。……三つほど!』
「あ? なんだ、そりゃ?」
『ボクも、冨賀森っていう人の『気』を持ったものを依代(よりしろ)にして霊査したわけじゃない、だから、精度に自信はもてない。だけど、こんな風に同じ人間の反応が複数現れるなんて、普通じゃない!』
 珠璃の言わんとすることはわかる。俺は、姉貴の部屋の前まで行って部屋の中にいる姉貴にも聞こえるように会話した。
「つまり、その冨賀森っていう人が、宝條のあたりで、なんらかの霊災(れいさい)に遭ってるって可能性が高いんだな?」
『そうなるね、その種類までは特定できないけど! で、今ボクは宝條一丁目に来てる。この辺りでもう一度、探ってみようと思う』
「宝條一丁目だな? わかった、俺も行く!」
 電話を切ったところで、姉さんが部屋から出てきた。俺は大雑把な説明をする。
「わかったわ。気をつけてね、竜輝」
 笑顔だったけど、どこか不安そうな瞳の姉貴を見て、俺は親指を立てる。
「これぐらい、解決できねえと、爺さんに張り倒されちまうよ」
 頷き、姉貴もサムズアップで応えた。


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