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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第24回 弐之傳 疾走する頭脳・伍
 月曜日。六時限目は化学だが、担当教師の都合で自習となった。ただ、それだと騒がしくなる恐れがあるため、自習用のプリントが作ってある上、手の空いていた教師……話では一年の、定年間近い数学担当という男性……が、監視役として教壇についている。
 もっとも、椅子を出して座るなり、「グループ学習してもいいが、うるさくするなよ」と、持参した参考書を読み始めてしまった。さすがは、教鞭を執っている時間の長いベテランはわかってらっしゃる。いたずらに「私語は慎め」とか「席を立つな」なんて言ったって、反感買うだけだし、グループ学習のメリットってヤツは実際に大きい。
 そんなわけで、俺はこのクラスで気の合うヤツのところに行った。
「よ、優硫(まさる)、いいか?」
 プリントをひらひらさせると、福殿 優硫(ふくどの まさる)も「おう」と、机を少し動かして、俺の椅子を置くスペースを確保する。優硫の隣のヤツが別の席に行ったので、そいつの椅子を引っ張り出して俺はそのスペースに椅子を置いた。
「いいのか、イケメン転校生? 女子の何人かが、こっち見てるぞ?」
 ニヤついて優硫が、そんなことを言う。
「勘弁してくれ。ちゃんとプリント仕上げないと、まずいだろ?」
 前の学校でもそうだったが、こういうグループ学習の時、どういうわけか女子が一緒にいるとうまく進まない。それは俺をダシにお喋りばかりするからとか、女子が俺に個人的な話ばっかり振ってくるからとか、そういうんじゃなくて、……あ、いや、そういう場合もあるけど、そうじゃない時でも、なぜかうまくいかない。おおよその見当はついてはいるが、そこまでの「影響」があるとは思えないしな。
 まあ、それはともかく。
 俺は優硫とプリントにとりかかる。いつの間にか、男女問わず生徒たちが集まってきて、七、八人ぐらいになっていたんだが、特に問題もなく六時限目終了の十五分前にはプリントは仕上がった。

 化学講師、蒼本(そうもと)は、今、自分の持つ常識を再確認していた。講師生活十五年。特に可もなく不可もなく。いや、ミハシラ・メディックスにも関わりのあるこの学園に引き抜かれたのは、大きな「可」だと言えるだろう。そしてここに来て3年。それなりに充実はしているものの、彼が望む「大きな成果」は手にできずにいた。
 そう、彼は「ミハシラ・メディックス」に研究員として招かれる、という野心を抱いているのだ。ミハシラ・メディックスは、国内でも五指に入る製薬会社だ。他の企業への技術供与などを加味した純粋な化学部門だけで考えるなら、そのシェアはおそらく一、二を争うに違いない。
 その企業から、こともあろうに彼が顧問を務める化学部の部員・三年生の冨賀森 直彦(とがもり なおひこ)に、声がかけられたというのだ。そのきっかけは去年十二月に開催された「ビジネスアイディア・コンクール」。そこで冨賀森は「あるアイディア」を提出した。そのアイディアは突拍子もない、否、妄想の域を出ないもので、学者として蒼本には到底、認められるものではない。
 ……いや、認めてはならないものだ。そう、自分を差し置いて生徒が認められるなど……。
 そんなわけで、蒼本は学会に提出する論文の精度をさらに高めなければならない。そのためになら、いや、それによって世間に、ミハシラ・メディックスに認めさせるためならば、あらゆる努力を払うつもりでいる。その作業をするため蒼本は、六時限目を休講にして資料の整理に化学準備室にやってきたのだ。
 そして彼はそこで自分の持つ常識を、再点検する必要に迫られることになった。
「ああ、先生」
 と、化学室へ通じるドアのところに一つの影があった。
「? あ、ああ、冨賀森くんか。君、授業はどうした?」
「授業? 僕ほどの天才が、今更、何を学べ、と?」
 薄い笑いを口元に貼り付け、冨賀森は歩み寄ってくる。その姿は、確かに冨賀森 直彦だったろう。だが、蒼本はそこに異なる「何か」を感じてもいた。
「どうですか、先生。これで、僕の理論の正しさが、証明できると思いますが?」
 そう言って冨賀森は視線を動かす。つられて蒼本も、そちらを見た。
 そこでは、犬が、床に置いた絵を合わせるタイプのパズルに没頭していた。……「絵を合わせる」という紛う事なき「意志」を見せて。


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