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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第20回 弐之傳 疾走する頭脳・壱
 土曜日、午後二時。ここは市の西部、暮満(くれみつ)の住宅街の北西部だ。暮満は市の西部の、どちらかというと住宅地だが、北西部が山林になっており、その山間(やまあい)にある川が隣の市との境になっている。その境の近くに一軒の洋館がある。といっても、さほど大きいわけではない。せいぜい建坪は三十坪ほどだろう。三階建てではあるが、三階部分は一部屋分ぐらいしかない。
 むしろ、この場所は広い土地の方が印象的だろう。高さ二メートル以上はありそうな塀で囲まれているが、その内側の敷地面積は少なく見積もっても百五十坪はあるに違いない。よく見ると建物には手を入れた形跡があり、おそらくは部分的に取り壊されて今の形になったであろうことが推測される。
 ここは大正期は、ある企業の保養所だった。戦後、別の企業に売却され、その後、さらに別の人物が買い取った。現在の所有者は個人名だが、その人物はかつてミハシラ・コーポに籍を置いていた。
 窓から明るい陽射しが射し込む広間に、三人の人物がいる。広間は三十畳ほどだろうか。年代物の本棚が二つあり、その中には、分厚い本が並べられている。背表紙は皆、外国語だ。床に据えられた時計は二メートルほどの高さがある。振り子の動きから、アンティークながら、いまだ機能していることがわかる。絨毯は少々痛みが激しい。
 広間にいる三人は皆、男だ。一人は三十歳程度だろうか。広間中央のソファに身を沈め、脚を組んでいる。オークルのスーツを着てネクタイを締めた、穏やかそうな顔つきだ。いわゆる茶髪だが、眉毛も同色であることから、染めたのではなくもともとこういう色なのだと推察される。二人目はスーツの男の背後に立っている。年齢は三十代半ばだろう。身長は百九十センチぐらいあるだろうか。筋肉質のマッチョではなく、シェイプアップされた感のある男だ。それがかえって鋭角な存在感を与える。長い髪を後でチョンマゲにし、危険な雰囲気さえ漂ってくる。目つきが鋭いのもその印象を強くしている一因かも知れない。
 最後の一人は、私立新輝学園の制服を着ている。茶髪の男に正対するようにソファに座っているが、対照的に背筋を伸ばしている。
「もっと楽にしてくれていいよ、冨賀森(とがもり)くん」
「は、はい、志賀(しが)さん」
 冨賀森と呼ばれた学生は、緊張の余り、頬の筋肉を小刻みに痙攣させてさえいる。穏やかな笑みを浮かべ、志賀と呼ばれた男が一つの箱をガラステーブルの上に置く。箱は三十センチ四方だろうか。何の絵も飾りもない、厚紙で組んだだけの素っ気ない箱だ。
「この中に『例のモノ』が入っている。確認してくれたまえ」
 一礼し、冨賀森は箱の蓋を取る。中にあるものを見て、冨賀森は首を傾げた。
「これが、『増幅器』、ですか?」
 冨賀森の疑問に、志賀は軽く頷く。
「信じられないかも知れないが、『性能』は保証するよ。……まあ、にわかには信じられないだろうがね」
 小さく唸ってから、冨賀森は箱の中身を凝視する。
「冨賀森くん。私は君をからかっているのではない。むしろ、その才能を高く評価している。去年十二月に開催された『ビジネスアイディア・コンクール』で君が出品したアレは実に素晴らしい。君にその気があるなら、在学中でもかまわない、我が『ミハシラ・メディックス』の研究室に顔を出してもらってもいい」
「ほ、本当ですか!?」
 思わず裏返った声で、冨賀森は身を乗り出す。
「ああ。私はそれだけ、君の才能を買っているんだ。そんな私が、君の熱意を茶化すような、そんなものを君に渡すと思うかい?」
 その言葉に、冨賀森はもう一度、箱の中を見る。そして。
「こ、これは、どう使えばいいんですか?」
 真剣な声で冨賀森は問う。
 口元に笑みを浮かべ、志賀は頷いた。

 一緒にいた私設ボディーガードの浦田(うらた)に冨賀森を自宅まで送るように命じた後、志賀は独り、広間でソファに座り、コーヒーを飲んでいた。
「うまくいくといいわね。それとも、『失敗したってかまわない』とか、思ってるのかしら、アレックス?」
 不意に女の声がした。振り向くと、いつの間に入ってきたのか、長い黒髪の若い女が一人。白いブラウスに黒いジャケット。黒いタイトスカートを穿いて、紅いハイヒールという出で立ちだ。黒いストッキングには金糸で蝶の刺繍がある。
「君か。いつの間にここへ?」
 口元に笑みを浮かべ、志賀は女を見る。女はそれには答えず、志賀の背後に回った。
「あなたがあの学生に渡したモノ。ちょっと危険なシロモノよね? 何考えてるの?」
 女はどこか艶っぽい笑みで、志賀に問いかける。
「さあ?」
 と、志賀も笑みを浮かべて空とぼけた。女は自分もカップをとってコーヒーを注ぐと、ソファの背に志賀と背中合わせになる格好で座った。そして、空いている方の手で志賀の頬を撫でる。
「『アレを、あの学生で試してみよう』、そんな風に思ってるって、顔に書いてあるわよ?」
 志賀はただニヤニヤするだけだ。
「成功しても失敗しても、多分あの学生は、文字通り破滅。そうなったら、多大な損失にならないかしら、ミハシラ・メディックスにとって?」
「確かに彼には素晴らしい才能がある。だが、彼程度の才能なら、捜せばいくらでもいるさ」
 そう言って、志賀はコーヒーを口に運ぶ。
「ひどい人」
 女が、口の端を歪めた笑みとともに、そう言うのを聞きながら。


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