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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第17回 壱之傳 白骨は美少女の夢を見る・拾肆
「……遅かったか?」
 生物室に来た時、すでに白骨標本はなかった。何か特別な理由で移動させたというのでない限り、ここに標本はあるはずなのだ。珠璃がそういう風に手配しているのだから。
 俺は、念のため、生物室の中を歩いて回る。かすかだが、何らかの呪力の働きが感じられる。だが、それは、異常な濃密さを持つここの力場ゆえのことかも知れない。ポケットからスマホを出すと、俺は登録した珠璃のナンバーをタップする。三コールで珠璃が出た。
「珠璃か? 標本がない。動かさないように、話はついてるんだよな?」
『そのはずだよ? ……なるほど、さっそく動いてくれたってことだね』
 その言葉に俺が何か答えようとした時だった。まるで火災報知器のような甲高い悲鳴が響いてきたのだ。
 俺はケータイの通話を切り、生物室を飛び出した。悲鳴がしたのは同じ階の教室だ。

 悲鳴がしたのは、LL教室だ。俺は一度、外から気配を探る。そして、中に入り、戸を閉めた。そしてポケットから、ハンダを溶かして作っておいたメダル状のアイテムを引き戸の下に置く。そして、
「乾兌坎離艮震巽坤(ケンダカンリゴンシンソンコン)、諸将吾護身(ショショウゴゴシン)、諸人子他者遠離(ショジンシタシャオンリ)、神兵召呼火急如律令(シンペイショウコカキュウニョリツリョウ)!」
 と、特殊な印を組みながら、呪文の略詞を唱える。これは、簡易的な「人払い」の結界、つまり人を遠ざけるエリアを形成するアイテムだ。咄嗟の場合、結界を張る儀式を行う余裕なんかない。自分の「念」でそういうものを形成するやり方もあるが、正直、そんな大技は使いたくないような些事もある。なので、そんな時のためにご先祖が編み出したのが、この方法だ。爺さんの頃までは呪符を使ってたらしいが、父さんが、呪符のかわりにハンダを溶かしてメダル状のものを作る方法を編み出した。呪符と同じ符形を表面に刻んだ、二枚のメダルを内向きに組み合わせたり、そもそもこんな小さな中に緻密な符形を刻まなきゃならなかったりと、手間暇かかるが、金属なので使い方が丁寧であれば長持ちするし、小さいので持ち運びも便利だ。ハンダだから、その気になれば、すぐに修正できるしな。
 結界が形成されたことを確認すると、俺は椅子から転げ落ちて震えている女生徒に近づいた。
「何があった?」
 もちろん、黒板の前に立つ白骨標本から目を離すことなく。女生徒は震えながら、言った。
「こ、ここ、ここで、じじじ、自習してたら、ガガガガがガイコツつツツツツ」
 ……要するに。教師から許可を取ってここで自習してたら、引き戸が開いて、白骨標本が入ってきた、ということか。
 だとすると、いろいろ謎だな。同じフロアで、しかも廊下は真っ直ぐで見通しがよく、俺が生物室に入ってそんなに時間が経たずに悲鳴が聞こえた。ということは、標本が廊下を歩くところか、またはLL教室に入っていくところを、俺は見ているはずなのだ。
 俺は女生徒の額に手を当て、軽く「念」を送って沈静化させ眠らせると、白骨標本に近づいた。標本はちょうど黒板に「血肉が欲しい」と板書したところで、ふと振り返り、俺を見た。
 自分の目つきが自然とキツくなるのを感じながら、俺は言った。
「……変だな? お前、どうやって動いてる?」
 確かにここは力場だのなんだのがおかしい。だが、ここまで近くでしかも集中できる環境だ、相手のことを「間違える」とは考えにくい。
 そう、この白骨標本には、何かが取り憑いている気配も、呪術が施されている気配もないのだ。俺は天宮流に伝わっている特殊な印を組み、口の中で秘呪を唱える。もっともこれも簡略化した作法だが、それでも何かが取り憑いているなら、その気配なりとも掴むことができる呪法だ。
 だが、この呪法をもってしても、この標本の正体が掴めない。
 ならば、次の呪法を試してみるか、と思った時だった。
 標本が、何か言いたげに下顎をガタガタと動かし始めたのだ。いや、これは実際に何かを喋っていると考えるべきだろう。俺は静かに息を整え、印を組む。そして「咒(しゅ)」を唱える。霊耳をもってさえ聞こえぬ、未だ発せざる「声」を聞くための呪法だ。
『血肉が欲しい』
 まず聞こえたのは、この言葉だ。
「血肉が欲しい? どういう意味だ?」
 第一に考えられるのは、食人鬼あるいは食屍鬼の類(たぐい)ってことだ。だが、これまでの目撃例や今実際に相対している感じからして、それはないと断言できる。だとすると……。
「言葉通りの意味じゃないかな?」
 背後から、ハスキーな声がした。……入ってきたのは気づいていた。珠璃だ。さすが、天宮の関係者、結界の影響を受けず、ここに入ってきたか。
「どういう意味だ、それ?」
 振り返り、俺は珠璃に聞いた。
「多分、本当に『血肉』が欲しいんだと思うよ?」
 珠璃は頭をぼりぼり掻きながら言った。


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