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作品名:「Saga T 神氣學園封神傳」 作者:ジン 竜珠

第1回 序之傳・壱
 千京市(せんきょうし)っていうところは、俺の実家からは、かなり遠い。新幹線で一時間ちょいのところだ。そこに引っ越すことになったのだ、家の事情で。
 しかし引っ越すのは俺一人だけ。……それって、「家の事情」って言わねえだろ、世間様では?
 とは思ったが、爺さんの言うことなら逆らえない。うちでは爺さんは「アイアム・ルール」の人だからな。……一応は抵抗したよ? 「儂(わし)の屍を越えていけ!」なんてセリフ聞いた時にゃあ、思わず「辞世の句を詠んどけやぁ!」って言っちまったが……。
「井の中の 蛙(かわず)と戯れ 独り泣く」
 ちなみに、勝負の直後、俺が詠まされた句な、これ。
 ちっきしょー! あのジジイ、八十二歳とか言ってるけど、本当は四十歳ぐらい、さば読んでんじゃねえのか!? 確かに長く伸ばして後ろで一つ結びにした髪も、口髭(くちひげ)も顎鬚(あごひげ)も真っ白だが、顔つきなんぞまだまだ中年でも通じるぞ。
 そんなわけで俺は高二の五月初めという、すんげえ中途半端な時期に千京市にある「私立新輝学園(しんきがくえん)」に転校することになってしまったのだ。
 引っ越しの前夜、俺を道場に呼んで爺さんは言った。
「よいか、竜輝(りゅうき)。天宮(あまみや)の血に連なる者として、果たさねばならぬことがある。天宮の裔(すえ)として為さねばならぬことがある!」
「……つまり、天宮のご先祖が昔やらかした不始末を片してこい、と?」
「ほう」と、大袈裟なぐらい目をむくと、爺さんは唸りながら言った。
「さすが我が孫、その洞察力はすでにして霊覚の域に達して……」
「小さい頃から聞かされてるっつーの、そのことは」
「う、うむ、そうであったな」
 バツが悪そうに、咳払いなど一つしてから、爺さんは続ける。
「天宮の者は、代々負わねばならぬ責がある。儂や輝鵬(きほう)……お前の父の代にはそれをする必要はなかった。じゃが、時ここに至りて、ついにその責務を果たすべき時が巡り来たのじゃ」
「ちょっと聞いていいか?」
 と、俺は口を挟んだ。
「爺さんも父さんも、バリバリ現役じゃねえか。そりゃあ確かに父さんは今、世界中を回ってるから、仕方ねえが、爺さんはここにいるだろう? 天宮流神仙道(しんせんどう)の宗師(そうし)として、鋭意活躍中じゃねえか。俺の代も何も関係ね……」
「竜輝よ」
 爺さんは俺の言葉を遮り、真剣な眼差しで言った。
「昔はな、男児十五で元服(げんぷく)というて、一人前の男として扱われたものじゃ」
「……。で?」
「つまりじゃ、お前ももう一人前の男として……」
「要するに、『不幸の順送り』ってことじゃねえか?」
「そんなことはないぞ」
 答える爺さんの表情が、どこか強張っている。図星と見た。
「……。まあ、勝負に負けたのは事実だし、転校もするけどさ。最後に言わせてくれ」
「なんじゃ?」
「俺より強ェんだから、無精すんじゃねえよ、くそじじい!」
「よぅし、よく言った竜輝! 表へ出ろ!」
「望むところだ!」
 そんなわけで、だだっ広い庭で、夜遅く、お手伝いさんの頼恵(よりえ)おばさんやら美加穂(みかほ)さん、住み込みのお弟子さんたちが見物する中、結局俺は負けたわけだが。
 餞別としては、最高のものだったんじゃないかな。
 その夜、俺は清々しい気分で床に就いた。


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