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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第9回 第一章・八
 といっても湧いて出たわけではない。
 いつの間に来ていたのか、竜聖のすぐ側に一人の若い女性が立っていたのだ。彼女は一枚の銀盆を捧げ持っており、そこには綺麗な茶器のセットが乗っていた。
 女性の着ている服は、どことなく昔の中国の女官風である。
 といっても、竜聖も小説か何かの挿絵で見た服に似ていると思っただけだから、本物の中国の女官服かどうかはわからない。
 女性はもう一人いて、そちらは兵摩の側に控えていた。
「六丁(ろくてい)の玉女(ぎょくじょ)ですよ。わかりやすく言えば、『識神(しきがみ)』です」
「識神、て、安倍清明が使ってた、ていう?」
 兵摩が頷く。
「この服は僕の趣味、というわけでもないのですが、一番しっくりくるんですよ。何でしたら、君がよく利用するファミリーレストランの衣装にもできますが?」
 その言葉と同時に、女性の周囲を桜の花びらに似た光が乱舞した。そして次の瞬間には、女官風の衣装から、胸を強調したミニスカートの制服へと変わっていた。
 まるで自分の嗜好をさらされているようで落ち着かない、とまでは、はっきりと言わなかったものの、竜聖はとりあえず「目のやり場に困る」などと言って、元の女官服に戻してもらった。
「これは正確に言うと、自己の内部にある『識神』なんです……」
 こんな感じで竜聖と兵摩は雑談を始めた。識神の話、竜聖の高校の話、今流行(はや)っているものの話。
 そしてすっかりうち解けた頃、ようやく兵摩は本題を切り出した。
「今から十年前になります。『千岳(せんがく)大帝(たいてい)』という男が、幾人かの不満分子や妖魔を引き連れて、竜夢神仙界の至宝の一つ、『仙珠(せんじゅ)』を奪ったのです。」
 兵摩は十年前に起こったという事件を語り始めた。
「当時、千岳大帝は中央にある鳳麗(ほうれい)宮(きゅう)に参内(さんだい)していました。彼は北方にある所領を治める領主ではありましたが、同時に中央に勤める役人でもありましたから、一年の内に一定の期間は中央の役所に詰めるのです」
 兵摩の説明では、中央の中でもっとも重要なのが「竜真(りゅうしん)宮(きゅう)」と呼ばれるところだが、そこには竜夢神仙界を拓いたとされる大神女(だいしんじょ)「竜皇姫(りゅうおうき)」が住まうとされている。そのため特別の資格がなければそこに行くことはおろか見ることさえ叶わないといわれているという。
 その次に重要なのが「鳳麗宮」。ここには実質的に竜夢神仙界を統治している存在である「応竜(おうりゅう)玄帝(げんてい)」が住むといわれる。
「千岳大帝は、玄帝陛下の信任も厚い大神仙でしたから、宝物殿への出入りも自由だったようです」
 そして兵摩はかすかに唇をかむ。悔しさがにじみ出て来そうな表情だ。
「なのに、こともあろうに彼は、玄帝陛下の信を裏切り、宝物殿から仙珠を盗み出したのです」
 兵摩の話では(といっても兵摩も人づてに聞いた話ということを断った上でだが)、その日は年に一度の、宝物殿に連なった古書庫にある、蔵書の虫干しをする日だったという。千岳大帝は従者だという者を数名引き連れて、古書庫へやってきた。そして虫干し作業の説明をしたのだという。虫干しを担当していた役人も疑問を感じることもなく、説明に加わった。
 そのうち千岳大帝の姿が見えなくなったが、別段気にすることもなく作業は行われた。
 そしてその日の夕刻。蔵書を書庫にしまう時に「それ」は起きたのだ。宝物殿の一角から有り得ない「呪的(じゅてき)炎(ほのお)」が上がった。古書庫にいた役人たちはすぐさま宝物殿へ駆け寄ろうとしたが、その場で金縛りにあってしまった。
 何人かの者はどうにかその状態から抜け出し、駆けつけたが、そこで彼らは驚愕すべきものを見た。
 仙珠を手にした千岳大帝が立っていたのだ。そしてその側に控えるのは、朝方「従者」として紹介された者たち、さらに千岳大帝の所領の獄(ごく)に繋がれているはずの妖魔。
 それはどう好意的に解釈しても「炎から仙珠を護った」と見えるような光景ではなかったらしい。
「彼の足下には、護衛兵たちの骸が転がっていたそうです」
 兵摩は沈痛な表情で言った。
「あとで調べてわかったことですが、中の宝を護るため宝物殿に仕掛けられた『護衛の陣』の一部が、無効化されていたそうです。それから古書庫を中心とした一帯に結界が仕掛けられていて、特定のルートからでないと宝物殿に行くことも、そこから出ることもできないようになっていたそうです」


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