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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第84回 第六章・十
 辺り一面、焼け野原であった。数日前までは見える限り木々ばかりだったが、今は竜聖の通う高校のグラウンドぐらいの面積が地肌をさらしている。そのほぼ中央に、元の姿に戻った千岳大帝が、朝日に向かうようにして立っていた。
 その体は石膏像のように、白っぽく薄い色をしている。左腕は肘から先がなく、体のあちこちにひび割れのような亀裂が入っていた。そして風が吹くたびに、彼の体から白い粉のようなものが舞い上がるのだ。まるで崩れゆく石像のように。
 しかし、彼の表情は穏やかに、安らいでいた。
 そして竜聖に向いて言った。
「少年よ、お主の言うとおり、儂は力に溺れ、大切なことを忘れていたようだ。最後の最後で思い出すことが出来た。礼を言うぞ」
 次に頭だけを巡らせ、悠姫を見る。
「悠姫、お前にはすまないことをした。これからお前には辛い運命が降りかかるかも知れぬ。存分に父を恨め」
 悠姫は黙って首を横に振るだけだった。
「兵摩、お前にはまだまだ教えねばならぬことがあったが、筋のよいお前のことだ、独学でも大丈夫だろう。あとは悠姫に教わるがよい」
 兵摩は黙ったまま、首を縦にも横にも振らなかった。
 千岳大帝は再び悠姫を見た。
「すまぬ。父として、お前には何もしてやれなかった。あとのことは、頼んだぞ。藍芳(らんほう)のことも……、お前の母のことも頼む。出来るならお前の選んだ男と酒を酌み交わしたかったぞ」
 ちらと竜聖を見たのは、気のせいだったろうか。
 千岳大帝は朝日を見るように顔を上げた。そして太陽に差し出すように、その右手を高く掲げると、微笑みを浮かべて言った。
「人よ、強くあれ!」
 その言葉が終わると同時に、風に吹き散らされる砂の像のように、千岳大帝の体は崩れていった。
 そして宙に残った白く光るソフトボール大の球体と、紅く輝く結晶体。千岳大帝の魂、そして仙珠だった。
 ゆっくりと歩み寄り、悠姫は千岳大帝の魂を抱き寄せた。そしてそのままやさしく抱きながら、泣き崩れてしまった。
 それを見ながら、竜聖は傍らに来た兵摩に尋ねるように言った。
「千岳大帝は、どうして今回のような事件を起こしたんでしょうか?」
 千岳大帝は決して頭が悪いわけではない。これだけの騒動を起こせばどうなるかわかっていたはずだし、自分のやろうとしたことが、どんな影響を及ぼすか、理解出来たはずである。
 兵摩は首を横に振って答えた。
「僕にはわかりません。でも、もしかしたら」
 竜聖は兵摩を見た。兵摩も竜聖を見た。
「千岳大帝も、『人間』だった、ということかも知れません」
 いたたまれない気持ちで、竜聖たちは泣き続ける悠姫に歩み寄った。悠姫の胸元から、千岳大帝の魂が、光の微粒子となって天へと舞い上がるのが見えた。
 朝日が静かに静かに、激闘のあとを照らしていた。


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