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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第82回 第六章・八
 竜聖は気合いをかけた。刹那、ガラスが砕け散るのにも似た甲高く堅い音が鳴り響き、黒い亀裂に囲まれた空間の景色が、割れ飛んだ。一瞬、砕けた辺りに、異様な色の景色が浮かんだように見えたが、それには構わず竜聖は跳躍した。鬼は今の術が破られた余波だろうか、その場から動けないようだ。
 その様を上空で確認すると、竜聖は急降下し、そのままの勢いで鬼の首に体当たりした。
 またもや鬼は吹き飛ばされ、今度は木を十本折ったところで止まった。
 立ち上がった鬼は、闘気はそのままだが、左腕の肘から先がない。振り返って確認するまでもなかった。鬼の左腕は空間に縫いつけられているのだ。
 ゆっくりと歩み寄る鬼に向かって、竜聖は言った。
「千岳大帝、お前の中にある『弱さ』を、俺が教えてやるぜ!」
 実際に手合わせしたのはわずかな時間だったが、竜聖は千岳大帝と自分との違いに気づいていた。そしてその差は小さなものであったが、同時にその差故に、千岳大帝の敗北が目に見えていたのだ。
「ほざけッ!」
 鬼が吠えた。それが術の行使だったのだろう、周囲に異様な角柱が、何本も地の底から生え、竜聖の足もとには西洋の魔法陣にも似た円形の呪符が現れた。
 目に見えない鎖が、金属の擦れ合うような音を立てて竜聖の体にまとわりついていく。
 千岳大帝が使っている力は、厳密には仙術ではないと、竜聖は感じた。いうなれば、仙術の源になる原初のエネルギーといおうか。神仙たちはそのエネルギーを利用するのに、神咒や呪符を用いる。だが、千岳大帝はそれを、意念(いねん)力(りょく)つまりイメージの力で使えるようだ。ただどうしても仙術の知識が先に走るため、このような形で発現してしまうようだが、「仙術」というフィルターを通さない分、より純粋で強力なことには違いなかった。
 しかし、と竜聖は思った。
 やはり千岳大帝は自分には勝てない、と。
 天空から巨大な力の気配を感じる。見上げると、黒い塊が降ってきていた。それは千岳大帝だった。もはや鬼の形すらしていない。長く太いものに変貌していた。
 黒竜。
 その形は、黒き竜のようであった。顔も長くなり、角といい、ヒゲといい、まさに竜のそれだ。
 千岳大帝は竜聖を地に縫いつけたと確信しているのだろう。一直線に向かってくる。
 弾丸と化した千岳大帝が直撃する直前、竜聖は難なく戒めを解き放ち、千岳大帝をかわして空高く舞い上がった。地面に千岳大帝が直撃したのだろう、轟音とともに多量の砂埃(すなぼこり)が舞い上がる。その煙を突き抜けて、黒き竜が向かって来た。
 だが今の竜聖には、千岳大帝がどこに向かって来るかが手に取るようにわかる。オーラというのだろうか、黒い竜に先んじて影のようなものが動いているのだ。それを見れば千岳大帝がどこに向かうかが、はっきりとわかった。
 もしかすると、一種の予知かも知れなかった。
 まるで鬼ごっこをするように天空で飛翔する竜聖は、ふと自分が飛んだ軌跡を目にした。
 白い光が長く伸びている。まるで白い竜体のようだ。もしかすると、傍目には白い竜と黒い竜の戦いに見えるかも知れない。
 いつまでも鬼ごっこに興じるわけにもいかない。竜聖は方向を転換し、千岳大帝を見下ろす位置に止まった。そして空中で渾身の右パンチを打ち出す。その手からは空気の層を裂くほどの衝撃波が巻き起こり、空間の分子を振るわせて発光現象さえ起こした。まるで拳の先から白い光線を放ったように見えるのだ。
 その光線は黒竜の鼻柱を砕いた。それだけでは足らぬとばかりに、そのまま黒竜を地上へとたたき落とした。


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