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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第81回 第六章・七
 竜聖が着ているのは、煌竜からもらった服に似ていたが、もう少し硬質な感じだった。
 彼の知識にある限り、こんな服は存在しない。強いていえば、胸や関節などの要所だけ金属繊維で編んだ服、といった感じになるだろうか。
「ほう」
 鬼が竜聖を見て笑った。
「キサマ、爪を隠していたか」
 明らかに揶揄する口調であった。
 不思議なほど、竜聖の心の中は穏やかだった。自分の背丈の、倍はあるような巨大な鬼を目の前にしても、恐怖心というものが感じられない。むしろ、先刻まで何故あれほど恐怖を感じていたのか、わからないほどだ。
 竜聖は静かに拳を構えた。
 それに何を感じたか、鬼は真剣な表情になって身構える。
 しばしお互いの様子を見るかの如く、沈黙の時間だけが流れた。
 そして、先に動いたのは、竜聖だった。
 後ろに引いた足で弾みをつけ、一気に鬼の懐へ潜り込む。それはまさしく一瞬の出来事だった。竜聖がこんなに素早いスピードで踏み込んでくるとは予想しなかったのだろう、目を見開いた鬼の腹へ、竜聖は右拳をたたき込んだ。その刹那、鬼の周囲に張られていた不可視の障壁を突き破る感触を、確かに竜聖は感じていた。
 もろい。薄氷を割るよりも、遙かにもろく、鬼の周囲にあった見えざるバリアーを竜聖は突き破ったのだ。
 強烈な右拳を受け、鬼が吹っ飛んだ。七〜八メートルは飛んだのではないだろうか。
 仰向けに倒れた鬼は、鼻息も荒く起きあがった。
「なかなかやるではないか。だが、所詮は蟷螂(とうろう)の斧に過ぎぬことを、教えてくれるわ!」
 鬼が怒気とともに火炎を吐いた。それは草やなぎ倒された木々を焼き払いながら、竜聖に迫る。
 だが、竜聖は一歩も動かなかった。動けなかったのではない。動かなかったのだ。
 その炎はただの火ではなかったのだろう。時々辺りに小爆発を起こしながら竜聖を呑んだ。
 その炎を受けながら、竜聖は一歩、また一歩と鬼に歩み寄っていく。全身を炎に包まれていながらも、竜聖は熱さも息苦しさも感じることなく、さらには火炎によって視界がふさがれているにも拘わらず、着実に鬼に向かっていく。
 鬼がひるんだのか、火炎の照射が止まる。その時、竜聖は鬼のすぐ側まで近づいていた。
 小さく息を吐き、竜聖は鬼目がけて跳び蹴りを放った。
 まるでカタパルトで打ち出したのではないかと思うほどの加速度で鬼に迫り、右足が鬼の胸板を打つ。衝撃波が発生し、轟音とともに鬼が吹き飛んだ。木々を五本ばかりへし折ったところで、勢いが止まる。
 肉眼でもはっきりと見えるほどの闘気を全身から立ち上らせながら、鬼が立ち上がった。
「小僧! ひねりつぶしてくれるわ!」
 言うがはやいか、鬼は左腕を突き出した。瞬間、その爪先の空間に黒いひびが現れ、数瞬遅れてガラスの割れるような音が耳に届いた。
 その亀裂は四方に伸びるかに見えたが、空中で角度を変え、竜聖に向かってくる。そして竜聖の体に亀裂が及んだ時だった。
 鬼が訝しげに首を傾げる。竜聖は静かに亀裂を指でつまんでいるのだ。


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