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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第8回 第一章・七
「一口に『神仙界(しんせんかい)』といっても無数にあります。私たちが来たのはその中の一つ、『竜夢(りゅうむ)神仙界』というところです」
 ことの次第を聞きたい、というのは竜聖も望むところであったが、いきなり理解の範疇を超える内容の話になってしまいそうだった。
 もっともそのあたりは兵摩も予想したことだったようだ。「百聞は一見にしかず、ですから」と言って、ポケットから小さく折りたたんだ紙切れを取り出した。
 それに向かい何か小さく呪文を唱えると、兵摩は三度ほど強く息を吹きかける。そして宙に放り投げた、次の瞬間!
 宙を舞った紙切れは瞬く間に展開し、竜聖の見ている前で、あれよあれよという間に十畳ほどの広さがありそうなログハウスへと姿を変え、空き地の一角に降り立った。
「さあ、中にどうぞ」
 兵摩が入り口のところに行き、手招きをした。
 これにはさすがに竜聖も驚いた。
 魂が抜かれたのではないかと感じるほど、体中の反応が鈍い。咄嗟には言葉が出ない。
 そんな竜聖の様子にはかまわず、兵摩はログハウスの中へと入った。
 しばらく呆けていた竜聖だが、ふと我に返ると、兵摩を追って中へと足を踏み入れた。
 そこでまた驚いた。
 中は十畳どころの広さではない。今立っているところはエントランスだが、そこだけでも十畳ほどはあるだろう。そこから奧に一部屋、左手に一部屋、さらに右手には上り階段と下り階段まである。
「そんな! 確かに外からは……」
 思わずこんな言葉が口をついて出る。外側からはどう広く見積もっても十二,三畳ほどしかなかったはずだ。それなのに、その中は予想を裏切る広さ。もはや物理法則がどうとか論じるのが莫迦莫迦しくなってくる。
 あまりのことに言葉を失っている竜聖に、兵摩が笑いを押し殺したような声で言った。
「神仙術の一つです。この中は通常とは違う空間だと思ってもらって、差し支えないですよ」
 その声に、竜聖は兵摩の方を向いた。その時初めて、自分が口をあんぐりと開けたままになっていたことに気づき、竜聖は照れ隠しに咳払いなどをしてみる。
「さあ、奧へ」
 兵摩に招かれるがままに、竜聖は奥の部屋へと歩を進めた。
 そこは一見すると洋風のダイニングだが、天井の模様といい調度品といい、どことなく中国を思わせる。そうかと思えば窓には障子がはめてあったりする。「和洋折衷」というカテゴライズがされたものではなく、ただ単に節操がない、という印象を受ける。
 竜聖がそんな感想を抱いたのがわかったのか、兵摩が申し訳なさそうに言った。
「無節操でしょう? なかなか舶来趣味が抜け切らなくて。これでもだいぶ統一してきているんですよ」
 悠姫にも言われたんですが、と付け加えて急に沈んだ表情になる。先刻のやりとりが竜聖の脳裏にもよみがえる。
 事情を知らない竜聖の目から見ても、悠姫という女性の態度はあまりに冷たく、つれない。二人がどんな関係なのかわからないが、もし恋人同士だったりしたら、目も当てられない。
 そんなことを考える竜聖だったが、兵摩は先刻までの深刻な表情をあっさりと切り替えていた。
「さあ、立ち話も何ですから、座ってください」
 勧められるままに腰掛けた竜聖の前に、ティーカップが現れた。


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