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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第76回 第六章・二
 悠姫が扇を閃かせる。その一瞬、辺りの光景が歪む。
「彼は完全に力に呑まれたわ。もはや以前の彼ではない! 気を抜かないで!」
 悠姫の言葉に頷くと、竜聖は蒜頭骨朶を掲げて叫んだ。
「突!」
 その呪に呼応して、先端の球体が、円錐形へと変わる。
 歪んだ光景が元に戻ったのはその時だった。いや、正確には元に戻されたというべきだろうか。
「結界など、小賢しいわ!」
 千岳大帝の叫ぶ声とともに風の唸る音が聞こえ、周囲の光景が元に戻る。だが、次の瞬間には、悠姫は空高く舞い上がっていた。竜聖は、ほとんど反射的に地を駆けていた。そして勢いを乗せるようにして、武器を突き出した。
 だが、それを軽くかわした千岳大帝は、左手から紅い塊を放ってきた。発射する瞬間までをも視界に入れながら、竜聖はよけることが出来ない。何とか左の腕甲を盾にしたものの、発生した衝撃波に吹き飛ばされてしまった。
 遠くで悠姫の声を聞いたような気がしたが、確認することなく竜聖は体勢を立て直す。
 腕甲は見事に焼けただれていた。だが、竜聖自身にはかすり傷一つ無い。どうやら全身に及ぶという防護力のおかげのようだ。そう思った竜聖は再び気合いとともに千岳大帝に向かって行った。
 千岳大帝はよける素振りを見せず、懐から札を取りだし、ばらまいた。次の瞬間、その札が空中で発光したかと思うと、一枚残らず竜聖に向かってくる。いくつかは武器ではたき落としたが、大部分は無理だった。竜聖は自分の周囲に張り巡らされている、目に見えぬバリアーのようなものが突き破られるのを感じた。それと同時に札が竜聖の体のあちこちに張り付いた。
 はがそうとするが、焦っているせいで、うまくいかない。その時、低い声が聞こえた。それは千岳大帝のもので、何か呪文を唱えたようだ。そして。
「竜聖!」
 悠姫の叫ぶ声が聞こえた。その方を見ると、彼女は千岳大帝と扇で渡り合っている。自分は、というと、全身が燃えていた。
 どうやら、例の札のせいのようだ。
 不思議と熱さは感じない。だが、両腕にはめた腕甲は燃え、着ていたトレーニングウェアも炎を吹き上げている。
 何だ、もうダメじゃん。あんなに気張っておいて、結局こういうオチか。
 竜聖がそんな風に自虐的になった時だった。
「あれ?」
 竜聖は妙なことに気がついた。確かに腕甲は火を上げ、服は焼けているようだ。だが、皮膚は何ともないようなのだ。
「もしかすると」
 あることに思い至るまで、若干の時間を要したが、竜聖は急に自信が湧いて来るのを感じた。
 武器を構え、千岳大帝まで一気に間合いを詰める。そしてまさに一撃を食らわせる、という瞬間に、千岳大帝は不意打ちに気づき、身をかわした。
 心底残念に思って、竜聖は舌打ちをする。
「竜聖! あなた」
 悠姫が目を見張る。それは千岳大帝も同じであった。
「キサマ!?」
 服が燃え尽きて炎も収まった頃、竜聖は武器を構え、大見得を切るように言い放った。
「俺には仙術は効かないぜ!」
 悠姫が瞳を輝かせて頷いた。


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