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作品名:仙珠伝奇 作者:ジン 竜珠

第75回 第六章・一
 こちらを発(た)ったのは、早朝のことだった。といっても、もうあたりは白々と明るくなっている。
 場所はこの間と同じところ。木々がなぎ倒され、破壊の跡が痛々しい。隕石でも落ちたか、建っていた建物がまるまる爆散したか。そんな印象を与えるほど、無惨なまでに森の一部が消失し、地肌が寒々と露出していた。テレビを見ていないし、学校にも行っていないので、この惨状がどのように伝えられているのかわからない。しかし実際に何があったか、その目で見ている竜聖でさえ、もし「空飛ぶ円盤が墜落した跡だ」といわれれば、おそらく信じてしまうだろう。
 それほどすさまじいものであり、その原因はこの目で見てさえ信じがたいものなのだ。
 昨夜は目が冴えてほとんど眠れなかった。しかし神経が高ぶっているせいで、疲労感は感じない。
 そんな様子を見て取ったのか、悠姫が竜聖の頬をいきなり両手で挟んだ。
「な、何?」
 心底びっくりした彼の声は、少し上ずっていた。
「竜聖、緊張はほどほどにね」
 竜聖の目をのぞき込んで、悠姫が微笑む。
 その笑顔はまるで、竜聖だけに向けられた極上の褒美のようにさえ、彼には思われた。
 横で兵摩が咳払いをする。
 我に返った竜聖も、咳払いをして姿勢を正した。
 周囲に変わった何かは感じられない。だが、二人の神仙は、確かに異変を感じ取っているようだ。兵摩は口の中で静かに何かの呪文を繰り返しているし、悠姫は懐から例の扇を取り出して構えている。
 竜聖も、手にした武器を構えた。そして周囲に目を走らせた、まさにその時。
「あれは?」
 竜聖の位置から五十メートルぐらい西になるだろうか、木々の間に、妙なものが蠢いている。目をこらすと、それはどうやら『記号』のようだった。
 いつか兵摩が話した「千岳大帝の使った呪符の文字」だろうか。はたして、悠姫たちもそちらを凝視している。彼らの目には、アレはどう映っているのだろうか。
 そんなことを思いながら、竜聖は武器を持つ手に力を込めた。
「来る!」
 そう叫んだのは悠姫だったろうか。
 突如、空気が膨れあがるような感じが起こったかと思うと、熱い突風が吹き荒れた。
 危うく吹き飛ばされるところだったが、悠姫がしっかりと抱きとめていたおかげで、その場に踏みとどまることが出来た。しかしそのことに対して竜聖に何か感じる余裕も言う余裕もなかった。
 恐怖。
 竜聖は目の前から、実体化した「恐怖」が迫り来るのを感じていたのだ。
 悠姫も、兵摩も、一言も発しない。三人とも、目前の光景に息を呑み、動けないのだ。
 彼らの視線の先にいたのは、確かに千岳大帝のようだった。着けている鎧、体のシルエット、そして手にした紫火七星。確かに彼は人の形、いや、千岳大帝の形はしていた。だが、そこにいたのはもはや千岳大帝ではない、別の何かとしか表現出来ない存在だったのだ。
「そ、そんな」
 ようやく絞り出した悠姫の声は、かすれていた。
 そこにいるのは、人の形をした「力」そのもの。意思の働きがあるのかわからぬ、ただの「力」だったのだ。
「うぬ、貴様らか。性懲りもなく」
 それが呟く。
 どうやら記憶はあるようだ。だが、人格までとどめているかは疑わしい。
「儂は究極の力を手に入れた。これを使ってまずは地上の『力ある者』を滅ぼし、ここに新たな竜穴を築いて人間界を改造してくれん!」
 それが紫火七星を構えた。


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